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辻村深月『かがみの孤城』を読了。昔『名前探しの放課後』を広告かなにかで見かけておもしろそうだなと興味をもって以来、私の中で〈興味はあるのになかなか読まない〉という位置づけになりつつある辻村作品。3年前ぐらいに『ぼくのメジャースプーン』を読んで、その前後にたしか『オーダーメイド殺人クラブ』も読んだことがあります。知人が過去に辻村作品を結構読んでいるらしく、本棚に何作品か置いてあるのを見かけたので『名前探しの放課後』もいずれ借りようかな。漫画と文庫ごっちゃごちゃに詰めこんであるあの無法地帯から発掘できればの話だけど。ついでに、まるで読んでいる気配がないから貸してた文庫本も黙って回収していこうっと。

 

 

 

1800円の価値がある表紙

あなたを、助けたい。

 

学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。

 

※出典:https://www.poplar.co.jp/pr/kagami/

たしかにネットでも「傑作」の文字をたびたび見かけましたが、私は前述したとおり辻村作品2作程度しか読んだことがなかったので、純粋に表紙に惹かれて。上半身を傾けて鏡をひょこっとのぞきこんでいる“オオカミさま”がかわいい。裏表紙に続くアンティークな孤城のインテリアも心ときめかされます。いいなぁ、私の部屋にもあんな本棚や出窓ほしいなぁ。

 

カバーもさることながら、このカバーを外しても古い洋書を思わせる赤の重厚なデザインで素敵。銀色のスピンといい鏡の反転?を意識した扉といい、ひび割れた鏡を彷彿とさせるタイトル文字、細部にまでこだわりを感じて装幀ヲタの私大歓喜。これだけでもう1800円の価値ある。デザインの観点だけ見ても長く手元に置いておきたくなる1冊です。グッドデザイン賞あげたい。

 

 

 

息苦しさはオーダーメイド

大人になるにつれ、私たちはつい「あいつよりも」「あの子のほうが」なんて、誰かと比べながらじゃないとつらいことに立ちむかえなくなってしまう。誰がマシとか、誰が一番とか、そんなのあるわけないのに。本当は“つらい”という感情はオーダーメイドで、それぞれが自分にとっての“つらい”を持っていて、たとえ共感・共鳴はできなくても、誰かの心に、こころが、アキが、フウカが、マサムネが、ウレシノが、スバルが、リオンが――生きづらさが、住んでいるかもしれないのに。

 

自分自身がたいした人間ではないから、私は苦しんでいる人に「闘え」とも「逃げろ」とも言えないし、言いたくない。そのかわり、生きていくことの息苦しさには千差万別いろいろな理由がきっとあるけれど、どんな方法でもいい、とにかく、今を明日につなげてほしい。つなげてくれますように、と祈りたい。

 

手の先に、柔らかく、温かいものが、触れる。
誰かが、こころの手を握り返す。
その感触が伝わってきた瞬間、こころはきゅっと目を閉じた。しっかりとその手を握る。絶対に離すもんか、と思う。

(P500/L14~17より引用)

 

あなたを助けたいと思っている人たちが、あなたにたどりついて手を伸ばすチャンスを、どうか与えてほしい。それだけでいい。それだけでいいから。

 

 

 

急カーブの遠心力

ジャンルとしては青春小説、なのでしょうか。10代の少年少女による群像劇なので、ピッタリカッチリ自分に合ったとはいえないけれど、ファンタジーと思わせておいて後半フルスロットルでミステリーにもっていく急カーブの遠心力がとても心地よく、伏線のさりげなさや広げた風呂敷を畳むときのスマートさはさすが。中だるみとは違いますが、なんというか、エンジンのかかりが遅いおはなしなんだけど、3月以降の展開に読後は「読んでよかった!」と本を抱きしめました。

 

本編500P強となかなかの鈍器で、読んでいるあいだわりと本気で腱鞘炎になるんじゃないかって心配したほど手とか腕とかしんどかったけどこれは再読待ったなし…とりあえず腕の筋肉鍛えるところからはじめます。2周目が実現したときには考察記事もぜひ書きたいなぁ。

 

 

追記

2018年本屋大賞受賞おめでとうございます!急に人気記事に挙がってきたなぁと他人事のように思っていたら、なるほど、本屋大賞の影響だったんですね。人目に触れる機会が多くなってきたので記事内の私の恥ずかしい自分語りのくだりはごっそりカットしました。こちらからは以上です。

 

 

 

 

2018年6月6日に加筆修正しました。

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。