!ネタバレ注意!

本記事には蒼月海里『水上博物館アケローンの夜』のネタバレおよびネタバレとなるワードを使用した箇所があります。作品を既読している、または、これを承諾する場合のみ読んでいただきますようよろしくおねがいします。

 

先日読んだ小説、蒼月海里『水上博物館アケローンの夜』の舞台となった東京国立博物館に行ってきました。となりの国立科学博物館なら行く機会が多いのですが東京国立博物館に入館するのは今回がはじめて。作中に登場するあの笹蟹蓋置ささがにふたおき経筒きょうづつ埴輪はにわを鑑賞した感想をなどを記しておきます。

 

 

 

展示期間に注意しよう!

国立科学博物館へ行く道すがらよく東京国立博物館の外観は見ているのですが、あれ傍目からみても、敷地かなり広そう。ということで、目当ての展示物を探してぐるぐるしないように事前に公式サイトで場所を確認しておくことにしました。

 

作中に登場するキーワードはもれなくチェックしたいところですが、初心者だし、とりあえずは無難に物語に大きく関わる歌川国芳の「金魚づくし」、「蓬莱蒔絵鏡箱ほうらいまきえかがみばこ」、「笹蟹蓋置」、埴輪の中から“ケルベロス”こと「埴輪 犬」と作中では“奏者”と描写された「埴輪 琴をひく男子」、そして「経筒」の6点について調べます。

 

ところが、しょっぱなから、探せど探せど展示物一覧の中に「金魚づくし」の名が見当たらない。見落としているんだろうか…とサイト内を隅々まで見てまわると、お問い合わせのページにこんな回答文を発見しました。

 

総合文化展は、主に所蔵品と寺社などからお預かりしている寄託品で構成されます。作品がいたまないように、材質や状態によって期間を定めて定期的に展示替えを行っています。たとえば、絵画、書跡、染織、漆工作品は4~8週間ごとに作品の入れ替えを行っています。

 

出典:http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=156

 

なるほど、「金魚づくし」はたぶんちょうど展示を行っていない時期なんだろう。定期的に展示替えが行われるというのはそのとき見れるものと見れないものがあって一期一会って感じがしてワクワクするなぁ。作品ひとつひとつへの愛情や尊敬も感じる。ミュージアムショップのサイトを確認したら「金魚づくし」デザインのクリアファイルは作中同様置いてあるようなのでこれは忘れずに買って帰ろう。

 

他にも「蓬莱蒔絵鏡箱」が展示期間から外れていたので今回は見送り。本命だった「笹蟹蓋置」は2018年6月18日まで展示されているようです。見れる!よかった!埴輪2点も同6月3日まで、「経筒」も同6月9日まで展示されているとのことなのでここらへん今すぐ実物を見たいという人はお見逃しなく。

 

東京国立博物館の展示物にはそれぞれ展示期間がある。さっそく勉強になりました。覚えておこう。

 

 

 

東京国立博物館へ!

というわけで、やってきました東京国立博物館

 

まったくの偶然ですがこの日(5月18日)は国際博物館の日で総合文化展は観覧無料。当初の予定より取材費用がちょっと浮きました。やったー!

 

 

 

本館

まずは本館に展示されている「笹蟹蓋置」を鑑賞、そのあと、忘れないうちにミュージアムショップでゴーフルクリアファイルを買っておきます。

 

笹蟹蓋置

「(前略)特にこの笹蟹蓋置は、こんなに小さな蟹が一生懸命に蓋を支えている姿が健気でね」

 

(P116/L10~11より引用)

 

二階堂さんも常日頃から眺めていたという「笹蟹蓋置」。作中、二階堂さんの身を案じて彼のまわりをちょこちょこ動きまわっている姿がなかなかかわいくて、読書中ずっと実物を見てみたいと想いを馳せていた作品なので、対面したときは感極まってその場でそっと息を呑みました。

 

小さい、というのがまっさきに浮かんだ感想。読んでいた当時は「蓋置き」というものがどういうものなのかわからなかったので蟹という以外のイメージはほとんどぼやけていたんだけど、そうか、こんなに小さいんだ。昔、祖父が住んでいた田舎の川で捕まえたサワガニくらいの大きさで、蓋置きとしても手のひらにちょんと収まってしまうほど。なるほど、毎日見ていれば愛着をもってしまうのもわかる。

 

 

蓋置きというのは本来は茶釜の蓋を置くのに使われるものらしいのですが、こんなにかわいらしいアイテムなのだから、現代にも普及すればいいのに。訪問先でお茶を出されたとき湯呑みにかぶせてあるあの蓋とか茶碗蒸しの蓋とか置くのにどう?

 

 

 

お土産

茶碗蒸し食べたくなっちゃった、どうしよう、めちゃくちゃ茶碗蒸し食べたい…と頭の中を茶碗蒸しのことでいっぱいにしながら1階へ降りてミュージアムショップへ。朧さんからのおもてなしとしておなじみのゴーフルを探します。奥のほうにありました。

 

大きさがわかるように、こないだ文フリの帰りに友達になった文鎮(8.5cm)を置いてみました。

 

今の今まで贈答用にもらうような大きな缶を抱えてゴーフルをぱくついているところを想像していたので出流くん食べすぎでは?と思っていたけどようやく合点がいった。「コンパクトでお洒落な絵が描かれた缶」という部分が脳内で正しく映像化されてなかった。これ(6枚)なら1人で食べきれるわ。フードファイターと勘違いしていてごめんね出流くん。

 

「っていうか、あのゴーフルはここで買ったのか……」

 

(P79/L13より引用)

 

缶の絵柄は「風神雷神図屏風」「見返り美人図」「夏秋草図屏風」と3種類+全種類セットがあったけど今後の実用性を考えて「夏秋草図屏風」を選びました。緑茶やハーブティーの茶葉を入れるのによさそう。他の2種類は使い道を想像してみたらなぜかのど飴を入れるくらいしか思いつかなかった。もちろん龍角散。

 

さらに、文房具がならぶ一角で出流くんが引っぱりだした「金魚づくし」のクリアファイルも発見。

 

作中チラッと登場するミュージアムショップのショッパーもならべてみました。

 

大きな猫の顔が覗き込んでいる。視線の先にいるのは、金魚だった。尾鰭を足のようにして立ち、手のような胸鰭を持ち上げている。何処かコミカルな表情は、間違いなく、僕が数日前に目にしたものだった。

「『金魚づくし』……」

ファイルに貼られたラベルには、そう書かれていた。

 

(P77/L9~13より引用)

 

出流くんが引っぱりだしたクリアファイルは画像左の“百物語”仕様だったのですが私は“玉や玉や”のほうが好みなのでそちらがあしらわれた画像右のミニクリアファイルも別途購入。絵柄やクリアファイルのサイズ、みなさんはそれぞれどちらがお好み?

 

 

 

平成館

本物を見ることは叶わなかった「金魚づくし」に想いを馳せつつ、笹蟹蓋置と同様ぜひ本物を見たいと思っていた埴輪、そして朧さんが見ていたという経筒を鑑賞するため平成館へむかいます。本館の1階奥に直通の通路があるので外へ出ずにサクサク移動することができました。この通路に関しても記述があったっけ。

 

平成館に繋がる廊下には、縦に長い窓ガラスが等間隔に嵌められていて、そこから光が射している。外界の光を受けた水は、僕が歩く度に波紋を広げて、白い天井にゆらゆらと怪しい光を反射させていた。

 

(P140/L10~12より引用)

 

本館と平成館のちょうど真ん中あたりに円形のベンチがあるのですが、ねむっているおじさまがいたり、スマホをながめる女性がいたり、静かな休憩スペースとなっていました。館内はもちろんどこも静かだけれどここを通るときは静寂が色濃く感じられて、普通の通路なんだけど、これはこれで趣を感じました。

 

 

 

埴輪

平成館へ入館してしばらく進むと、本日のメインイベントその2、埴輪です。小島のような展示台の上に動物や人間を模したさまざまな埴輪がずらりとならんでいる様子は圧巻の光景!この中から目当ての埴輪を見つけるのは人混みの中に待ち人を見つけるような心地で胸がときめきました。しかし相手は埴輪。

 

その膝には、土で出来た琴のような楽器が載せられていた。それには、見覚えがある。
そうだ。彼も奏者だった。

 

(P152/L12~13より引用)

 

作中はっきりと明記されていませんが、文脈的に、これってたぶん「埴輪 琴をひく男子」だと思う。

 

埴輪といえば「埴輪 踊る人々」や「埴輪 馬」あたりを連想するので当然くりくりまんまるのチャーミングなおめめを想像したのだけど、「埴輪 琴をひく男子」はおめめ横に細いんですね。ガッツリ一重。私と同じじゃん!仲間!なるほどこれはたしかに嘆きの川を増水させそうなちょっと悲しそうにも見える表情。この子が出流くんにセッションしたい~と遠慮がちな目線を送ってきたのか、と想像したらキュンとしました。セッション不可避。

 

 

そして、彼のななめ後方に“ケルベロス”こと「埴輪 犬」があります。

 

よく見ると口元には数本ばかりの歯、横からチロッと垂れた舌、おしりにはくるんと巻いたブルテリアのようなしっぽ。ふむ、埴輪は権力者を葬る際に人や馬を殉死させる風習の“身代わり”として発展したそうだから、細部まできっちりつくりこむ必要があったのかも。そう考えるとこの口元やしっぽの造形からは作者の愛情やこだわり、死者に対する尊敬の念など、さまざまな想いを感じます。

 

 

この時代から首輪という概念があったことにも驚き。しっかり飼っているんだなぁ。

 

 

 

経筒

しばらく埴輪の群れをながめたあとようやく彼らに別れを告げ、角をまがって、最後に「経筒」を鑑賞します。

 

作中、出流くんが「まるで、タイムカプセルですね……」と表現していたとおりの外観。あとは、個人的に骨壷のような印象も受けました。底のほうから青緑に浮かびあがる錆が立ちのぼる炎のように見えたからかな。筒の外周に書かれた文字は、手書きだからあたりまえなんだけど、大きさや筆跡などまちまちですごく人間味を感じる。

 

 

釈迦の死後、二千年後に仏法の力が衰退し、末法の世になると信じられていた。そして、五十六億七千万年後に弥勒菩薩みろくぼさつが現れ、再び仏法が栄える時代が到来するため、それに備えて教典を保管しようとしたのだという。

 

(P200/L1~3より引用)

 

実際の経筒を見たうえで経筒がつくられた背景と朧さんの正体や過去を考えると、うーん、やっぱり出流くん=オルフェウスという転生説が私の中でどんどん濃厚になっていく。引用した経筒の歴史的背景は気が遠くなるような時間の流れの末にカロンと転生したオルフェウスがふたたび邂逅したことを暗ににおわせているような気がするんだよなぁ。

 

 

 

まとめ

学生時代の歴史の成績はギリギリ平均以下だった人間なので中身すっかすかなことしか書けなかったけど、初の東京国立博物館探訪、どうにか形にすることができました。見てきたもの、感じたこと、あえてすべてを記載することはしなかったので物足りないところがありましたらぜひ実際に東京国立博物館へ行って、実物を見て、歴史や小説の世界観を直接感じてみてください。手抜きじゃないよ!

 

個人的な感想ですが、他の博物館に比べて東京国立博物館の展示物にはパネルによる解説が少なく、ある程度は知識があることを前提にした造りと見受けられます。今回は主に小説に登場する展示物に絞って鑑賞しましたが、日本史・世界史をもっと勉強していれば他の展示物も楽しむ余裕があったかもしれない、と、帰りはちょっと後悔しました。平成館をまわっているとき、自分は縄文~弥生時代あたりの歴史や文化に興味があるかもしれない、と気づいたのでこのあたり知識がついたらまた行きたい。そのときは「金魚づくし」と「蓬莱蒔絵鏡箱」にもお目にかかれたらいいなぁ。

 

書いてみてわかったけど博物館のレポートは難しい。ただでさえレポートの類は苦手なのに、博物館となると当然歴史の知識がなければいけないし、実際に展示物を鑑賞しても感想は視覚情報に頼る以外にほとんど手段がないので筆がまったく進まない。博物館に行くのは好きだけど、できればもう二度と読書の延長で博物館に行くことがありませんように。

 

次回の博物館レポがないことをみんなで祈ろう。それでは。

 

 

東京国立博物館 公式サイト:http://www.tnm.jp/

 

 

 

おまけ

ミュージアムショップで買ってきたゴーフルは家に帰ってから食べました。出流くんに倣ってカモミールティーを淹れるべきだったのかもしれないけど、朧さんはそのときその人にふさわしいものを出している、という設定を汲んで、私は大好きな紅茶・レディーグレイを淹れていただきます。

 

もぐもぐ(´~`)

 

うん、口当たりは軽くてクリームがなめらか。美味しい。1袋にバニラ味、ストロベリー味、チョコレート味と3枚入っているけど私はバニラが一番好きかな。風味がひかえめでいい。1缶に2袋入っているので、バニラ→ストロベリー→チョコレートと食べたあとチョコレート→ストロベリー→バニラに戻るのがおすすめです。大事なことなのでもう一度言いますがクリームがなめらかで美味しい。届けこの想い。

 

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。