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根本聡一郎『プロパガンダゲーム』を読了。以前から気になっていたものの、「就活サスペンス」という言葉がなんとなく壁になって手にとるまでに至らずいたのですが、「読んでみたら?」という人からの後押しでようやく手を出しました。普通におもしろかった。読む前から「こういう設定苦手~☆」とか言って遠ざける自分が私は心底嫌いです。

 

 

 

ゲーム部分のつくりこみはすごい

「君たちには、この戦争を正しいと思わせてほしい。そのための手段は問わない」大手広告代理店「電央堂」の就職試験を勝ちあがった大学生8名。彼らに課された最終選考の課題は、宣伝によって仮想国家の国民を戦争に導けるかどうかを競うゲームだった。勝敗の行方やいかに、そしてこの最終選考の真の目的とは?――先の読めないゲーム展開と衝撃のラストが、宣伝広告の本質、ネット社会における民主主義とはなにかを読者に問いかける。アマゾン電子書籍の人気作を大幅改稿した完全版!

 

出典:http://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-52043-9.html

実際に〈プロパガンダ・ゲーム〉がはじまってからはページを繰る手がとまらないほどおもしろいのですが、とにかくルールが複雑で覚えることが多く、冒頭は読むのに多少時間がかかるかもしれません。思わず登場人物たち同様その場でメモをとるほどでした。

 

気づけば誰に言われるでもなく、学生のほぼ全員がメモを取るようになっていた。だが、「誰かがやっているから続く」という行動が嫌いだったので、今井は気にせず説明を頭に叩き込むことにした。今、メモをとっている人の大半は、どうせゲーム中にそれを確認しないだろうという気持ちもあった。

 

(P20/L6~9より引用)

 

おい今井ケンカ売ってんのか!こっちはイラレまで使って大変だったんだぞ!

 

同じところでつまづく人が今後いるかもしれないので、参考までに、私が個人的にまとめておいたメモをさらしておきますね。これで本著に興味をもってくれる人がいれば万々歳です。

プロパガンダ・ゲームとは

 

・仮想国家【パレット国】が【キャンパス島】をめぐって領有権を主張しあう隣国【イーゼル国】と戦争をすべきかどうか、戦争推進派の〈政府チーム〉と戦争反対派の〈レジスタンスチーム〉にわかれて制限時間2時間の宣伝合戦を行い、“国民投票”によって勝敗を決める。

 

・両チームは専用のSNS「パレット」を用いて、3分割された画面のうち左右のスペースをそれぞれ専用ページとして活用し、画像や文章で自陣営の主張を“宣伝”する。

 

・最終結果は無作為に選ばれたパレット国民(20代~50代の男女各10名ずつ5:5の一般市民)による“国民投票”で決定される。自陣営の票数が相手を上まわることが勝利条件である。

 

両陣営にはそれぞれ〈スパイ〉が1名ずつ紛れこんでおり、彼らは《盗聴》という専用アクションを行うことによって潜伏先での一部の会話内容を自陣営に告発することができる。

 

・〈レジスタンスチーム〉はチームアカウントの他にそれぞれ1つずつ市民アカウントを保有しており、一般市民のみ投稿することのできる〈広場〉で“市民”として書きこみを投稿することができる。

 

だいたいこんな感じ。興味が湧いてきましたらぜひ実際に読んでみてね、っと。

 

個人的にはレジスタンスチームの主人公・今井が好きだっただけに、最後はあまりに“らしく”なくて、それがちょっぴり残念。一方、苦手だなぁと思ったのは樫本かな。両陣営それぞれ、リーダータイプ、空気読めない枠、頭脳派、有能な右腕とキャラがはっきりわかれているのは読みやすかったし、チームごとに山場があって各キャラクターにちゃんと平等に活躍の場があったのは好印象。

 

作中でも言われていたけれど、本当にルールはそのままで〈パン派〉〈ごはん派〉みたいな内容でゲームをしてもおもしろそう。ボードゲーム化したら売れそうだし私なら買って遊んでみたい。それくらい〈プロパガンダ・ゲーム〉そのものはつくりこまれていてよくできていました。

 

 

 

蛇足感あるラストが引っかかる

領有権、集団的自衛権、隣国からの密漁船…フィクションの中のさらにフィクションであるはずなのに、最近よく耳にする心当たりありまくりの単語が頻出していて、不気味なほどリアルで、こういう未来が――ううん、もしかしたら、もう現実にこういう思惑が実際に水面下で蔓延しているのかもしれないな、と思ったらぞっとしました。三崎亜記『となり町戦争』を彷彿とさせる、静かなる脅威という感じ。戦争というとやっぱり軍隊や銃といったイメージが先行しがちだけど、作中でもいわれているとおり、現代は”情報戦”がまずあるんですよね。

 

プロパガンダ・ゲーム終了後からの話はエンターテイメント性が完全に抜けてただただシリアスなだけの展開になってしまって、蛇足感というか、自分の中で熱が冷めていく感覚があったんだけど、作者がおそらく伝えたかったであろうメッセージを汲むとあれも必要な展開だったはずなので非難しきれず、読み終わった直後はなんだかもやもやしました。「隠れ家」の章の前半くらいで終わってもスッキリしたと思うんだけどなぁ。

 

あまりにもモヤッしたので(ネタバレの同意を得たうえで)本著を読むのを後押ししてくれた人に相談したら、「ここまでが第1部みたいなものなんじゃない?」とのこと。ははぁ。たしかに“つづく”という前提なら納得できなくもない…けど、じつはこれ続編があったんです!って後出しで続編を出されるのも興醒めだし、あのラストなら私は仮に続編が出たとしてもたぶん読まないかな。ううむ。実際のところどうなんでしょうね。

 

 

 

ボードゲーム好きにも意外とおすすめ?

こういう社会派というか硬めなおはなしって、普段まったく読まなくて、まともに読んだのたぶん福澤徹三『東京難民』ぐらいなんだけど、就活や政治など社会小説的なテーマを扱いながらもエンターテイメント性があって、読みやすい小説でした。これなら怖気づかずにもっと早く読んでいればよかったな。

 

昨今のボードゲーム的な雰囲気もあるので、人狼ゲームとか(ちょっと違うかもしれないけれど)TRPGなどが好きな人にもおすすめできそう。

 

大衆というものの本質がよくわかるなかなかの良著でした。ぜひ。

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。