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藤原伊織『テロリストのパラソル』を読了。たぶん中高生ぐらいのときに読んでさっぱりだった大沢在昌氏の〈アルバイト探偵(アイ)〉シリーズ以来のハードボイルド小説だったけど「龍が如く」(ゲーム)で鍛えてきた私に隙はなかった。おそるおそるでしたが読みやすくておもしろかったです。そういえば12月に「龍が如く 極2」が出るそうですね。買います。

 

 

 

私「ハードボイルドはちょっと…」→結果

アル中バーテンダーの島村は、過去を隠し20年以上もひっそりと暮らしてきたが、新宿中央公園の爆弾テロに遭遇してから生活が急転する。ヤクザの浅井、爆発で死んだ昔の恋人の娘・塔子らが次々と店を訪れた。知らぬ間に巻き込まれ犯人を捜すことになった男が見た事実とは……。

※あらすじは講談社HP(http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062638173)より引用しました。

刑事小説とハードボイルドだけは性に合わないなぁと長いあいだ敬遠していたのだけれど、近日引っ越しがあるので荷造りをしていた際たまたま人に勧められるまま買ったきり放置していた本書が出てきたので作業合間にちまちま読みだしたらこれがとまらない!

 

アル中なのに言葉選びと推理が冴えわたる主人公・島村と軽妙さと冷静さをあわせもつ「奇妙なヤクザ」浅井のコンビネーションがウィットに富んでユーモアがあって最高すぎる。強いおっさんが好きな人にはきっとたまらないでしょう。私のイチオシは浅井さんです。島村は塔子に譲るよ。

 

 

 

異端者などいるのだろうか

思うんだけど、われわれが相手にまわしていたのは、もっと巨大なもの、権力やスターリニストを超えたものだって気がしてきたんだ。(中略)それは、この世界の悪意なんだ。この世界が存在するための必要成分でさえある悪意。空気みたいにね。

(P103/L7~10より抜粋)

 

思考実験の本がきっかけで先日映画『マイノリティ・リポート』を観ました。犯罪を起こしそうな人間を事前にマークして犯罪を起こさせないために薬物投与やリハビリのようなものを行う(映画では事件発生前に犯人となる人物を逮捕してしまう)、いわば犯罪の芽を摘む世界。映画を観終わって本書をふりかえってみると、犯罪者ってはたして特異な存在なのだろうか、と考えてしまう。そもそも犯罪ってどうやって生まれるんだろう。遺伝子レベルで決まっているの?法則や条件があるの?犯罪者およびその予備軍であることは生物学的に異端なの?

 

私たちは世代で生きてきたんじゃない。個人で生きてきたんだ。

(P372/L4より抜粋)

 

島村は最後、追いつめた犯人に対してこんな言葉を投げる。

 

たとえどんな巨悪を敵にしても、テロリスト(犯罪者)もまた結局は私利私欲や個人的な感情に突き動かされた1人の人間で。それだけじゃない。アル中の島村をはじめ、爆弾テロで母を亡くした塔子、ある理由からヤクザになった浅井や若くしてホームレスのタツなど、本書の登場人物たちはそれぞれがじつにさまざまな事情を抱えているけれど、これもまた人間の一端であって、彼らは決して異端者ではない。この物語においてあるのは、せいぜい積みあげてきたその現実を社会や人のせいにするか己の人生と受けとめるか、そういう違いだけ。

 

私たちはこういうとき、しばしばそれを社会のせいにして、あるいはそれらに八つ当たりすることで、不都合に目をつむってごまかそうとしてしまう。だけど島村は違った。どんな苦汁を舐めさせられても、それをきちんと自分に起きたこととして、割合のほほんとではあるが素直に受けとめる。優子や塔子はそれを「ノーテンキ」とからかったが、他人と温度差はあれ、いつも現実を直視できる彼のノーテンキは欠点ではなく圧倒的な強さだ。

 

犯罪を擁護するつもりはもちろんない。ないけれど、罪を犯した瞬間に当然死刑!野放しにしていた家族も同罪!犯罪者を生みだした〇〇は害悪!みたいな論調になる世の中にも、それこそ犯罪を目の当たりにしたような恐怖や不安を覚えます。それは『イノセント・デイズ』を読んだときにも感じたもの。

 

罪は人を人ではないなにかに変えてしまうのだろうか。
人類平等の名の下に異端者などいるのだろうか。
それは第三者が悪意に身を委ねるための大義名分になっていないか――。

 

幾分か昔に書かれた小説でありながら現代でも褪せることのないこの作品、普遍的テーマと捉えるべきなのか、それとも本質的に変わらない社会を嘆くべきなのか。先日ロンドンで起きた地下鉄テロのニュースを受け、私はまだその答えを考えあぐねている。

 

 

 

翳のあるおっさんはいいものだ

引っ越しのバタバタが終わるまでのつなぎ程度にしか考えていなかったのですが、思っていた以上に深みのあるハードボイルドなミステリーでした。やはり翳のあるおっさんはいいものだ。漫画『僕のヒーローアカデミア』のデクくんの担任の先生とか好きです、不健康そうで!

 

関口苑生氏の解説によれば本作と同じ主人公の別のおはなしが収録されているとのことなので、機会があれば短編集『雪が降る』も読んでみたい。そしてこれを機にハードボイルドにも積極的に手を伸ばせるようになるといいなぁ。今のところ垣根涼介氏の『ヒート・アイランド』が気になる。

 

本格的な読書の秋を前に新たなジャンルを開拓することができてよかったです。ハードボイルド未体験の方はここから一緒に開拓していきませんか?

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
読んだ小説の感想や考察を書いています。好きが高じて元小説家志望なので、一篇の物語のように心躍る記事が書ければ。ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれます。小説の他に哲学、美術、神話などの学術本も好きです。