ミステリー
  • 作家という病 -『盗作小説』感想

    ジーン・ハンフ・コレリッツ『盗作小説』(鈴木恵・訳)を読む。 かつてのベストセラー作家ジェイコブは、どうしても新作を書けずにいた。小説創作講座で教えるだけの日々に鬱々とし、受講生のエヴァンに怒りと嫉妬の炎を燃やしていた。授業を受ける意義がないとうそぶきながらも、彼の語る小説のプロットは素晴らしいものだったからだ。その三年後、ふとしたことからジェイコブはエヴァンが死んだことを知...
  • あのバウムクーヘンは無事に岐阜へ届いたのか -『見知らぬ人』感想

    エリー・グリフィス『見知らぬ人』(上條ひろみ・訳)を読んだ。 イギリス産ミステリーということで、さすが、話のところどころで紅茶やビスケットが出てくる。思わずこちらも、ミルクティーなんぞしばきながら二転三転のフーダニットを楽しませていただきました。 直前にピーター・スワンソン『アリスが語らないことは』を読んで「あああああ!(こういう男を翻弄する美人)マジで嫌いだわぁ!(^...
  • ホラーとはなにか? – 宮田光『沼の国』

    胡仙フーシェンというキツネがいる。中国の民間信仰に登場する神通力を持ったキツネのことで、たとえば河北省滄州市の楽城県にあった県城の奎星楼には古くから胡仙がいると信じられている。この胡仙は酒を飲んで暴れたり不信心な者に危害を加えたりするとも、また良薬を与えたり盲人の目を見えるようにしてやるともいわれた。 同じように、私たちの国でも妖怪とは総じて凶事と吉事の側面を併せ持つ。まだまだ科学が...
  • 賢さは、情報を集める技術ではなく精査する能力に宿る -『自由研究には向かない殺人』感想

    ホリー・ジャクソン『自由研究には向かない殺人』(服部京子・訳)を読みました。あらすじに「ひたむきな主人公の姿が胸を打つ」とあって、他所でもそのあたりがよく挙げられていたので手にとってみたのですが、広告に偽りなし!次々と浮かびあがる容疑者たちや被害者の秘密、脅迫者の影に翻弄されながらも一生懸命立ちむかうピップには好感しかなかった。相棒となるラヴィとのやりとりも微笑ましい。続編はもちろん買います。 ...
  • 梶原恭介はオレステスだったのかもしれない -『マザー・マーダー』感想

    ネタバレ注意! 本記事は矢樹純『マザー・マーダー』の重要な部分について触れていますので、作品を既読である、またはネタバレを承諾する場合のみ閲覧することを推奨します。 矢樹純『マザー・マーダー』を読みました。あらすじに「歪んだ母性が、やがて世間を震撼させるおぞましい事件を引き起こす」とあったので5話編成の長編小説かなと思ったのですが、どちらかというと連作短編集でしたね...

    2022年3月17日

  • 感想│森川智喜『死者と言葉を交わすなかれ』

    当ブログでは三途川理シリーズでおなじみ森川智喜さんが2020年に上梓された、三途川理シリーズじゃない長編ミステリー。 純粋に三途川理シリーズが好きな私なので正直最初はあまり期待していなかったのですが、結局、後頭部をどちゃくそに殴られた気分です。普通におもしろかった。あたりまえだけど。いや、「普通」ですらなかったな。ミステリー小説であることをフルに活かした1冊だったと思う。森川さんはあ...
  • 現代に適合した究極の妖怪〈怖ガラセ屋サン〉に震えろ -『怖ガラセ屋サン』感想

    澤村伊智『怖ガラセ屋サン』を読みました。リアリズム、詐欺、イジメ、怪談ビジネス、芸能界、大病……さまざまな境遇におかれすっかり恐怖を軽んじるようになってしまった人々にとっておきの恐怖を突きつける〈怖ガラセ屋サン〉にまつわる連作短編集。ホラー小説を読んで窒息しかけた過去があるのに澤村産ホラーだけなぜか着々と新刊を追っている私も、まぁ、ホラーっちゃホラー。 大人になって「...

    2021年12月28日

  • 人は得てして、なりたいものになれない -『偽恋愛小説家、最後の嘘』感想

    森晶麿『偽恋愛小説家、最後の嘘』を読みました。前作からどのぐらいぶり?うそ、5年……?控えている積ん読のリストがえぐいので今回はとくに前作・前々作の再読とかはしなかったんですけど、それでもすんなり文章や世界観に入っていけました。正味1日で読んじゃったな。さすが森晶麿。いや、森センセ。 今回は作家・星寛人がSNSの公式アカウントにて「最高傑作ができてしまった」とつぶやいたことから各出版...
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佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。