家族
  • ホラーとはなにか? – 宮田光『沼の国』

    胡仙フーシェンというキツネがいる。中国の民間信仰に登場する神通力を持ったキツネのことで、たとえば河北省滄州市の楽城県にあった県城の奎星楼には古くから胡仙がいると信じられている。この胡仙は酒を飲んで暴れたり不信心な者に危害を加えたりするとも、また良薬を与えたり盲人の目を見えるようにしてやるともいわれた。 同じように、私たちの国でも妖怪とは総じて凶事と吉事の側面を併せ持つ。まだまだ科学が...
  • 梶原恭介はオレステスだったのかもしれない -『マザー・マーダー』感想

    ネタバレ注意! 本記事は矢樹純『マザー・マーダー』の重要な部分について触れていますので、作品を既読である、またはネタバレを承諾する場合のみ閲覧することを推奨します。 矢樹純『マザー・マーダー』を読みました。あらすじに「歪んだ母性が、やがて世間を震撼させるおぞましい事件を引き起こす」とあったので5話編成の長編小説かなと思ったのですが、どちらかというと連作短編集でしたね...

    2022年3月17日

  • 良い女と書いて「娘」という、呪縛 -『あさひは失敗しない』感想

    ネタバレ注意! 本記事は真下みこと『あさひは失敗しない』の重要な部分または結末について触れていますので、作品を既読である、またはネタバレを承諾する場合のみ閲覧することを推奨します。 真下みこと『あさひは失敗しない』を読みました。母が娘に授けた言葉は、愛か、呪いか。女性だけでなく、母親という存在に閉塞感を覚えるすべての「子供」に読んでほしい普遍の自立の物語です...
  • クリスマスは「誰と」過ごすかじゃなく「なにをして」過ごすかを大事にする日 -『通い猫アルフィーの贈り物』感想

    レイチェル・ウェルズ『通い猫アルフィーの贈り物』(中西和美・訳)を読みました。シリーズ7作目。新刊の存在自体は11月の段階で知っていたんですけど、クリスマスの話ということで、12月になってから読もうとこのタイミングになりました。 5、6作目の感想が抜けているのはおもしろくなかったからではなく感想を書くためのテーマが自分の中に見つけられなかったからなんですけど、今回は久しぶりにアルフィ...
  • 優しくするのが恋。赦すのが、愛。-『水たまりで息をする』感想

    高瀬隼子『水たまりで息をする』を読みました。読了から一晩経ちましたが、なんか、すごいものに出会ってしまったなぁという気持ちです。久しぶりに。初めて今村夏子の『あひる』を読んだときみたいな。とても現代的で、かつ寓話的でもあり、まさしく水たまりのような意図的につくられた芸術的な閉塞感。 そういえば、雰囲気は『星の子』に似ているかもしれない。あちらは狂気の中にも親子の愛情があったからまだ救...
  • イルカの「スポンジング」は母から娘にしか継承されない -『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか』感想

    原田ひ香『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか』を読みました。作品を知ったきっかけは「タイトルが絶妙」という書評だったけれど、本当に絶妙。そもそも「原田ひ香」という名前もずるい。 内容は、実家の母から送られてきた小包をテーマにした6編の短編小説集です。結婚するまで実家暮らしだったので私自身は〈母からの小包〉というものに馴染みはありませんが、六者六様の親子のありかたに不思議と自分たち...
  • この小説に、「疑問」ではない感情を見出してしまったら私たちは -『ミラーワールド』感想

    池ヶ谷良夫、中林進、澄田隆司、3組の家族の“主夫”を中心に描かれる差別と葛藤の物語。3組の家族の視点からとある事件、その影響を描くという構成は『明日の食卓』に酷似しますが、これって作者が得意とするフォーマットなんでしょうかね。それとも『明日の食卓』の映画化に味をしめた編集者の指示か。個人的には気になるところです。……え?そんなことより主婦じゃないのかって? ねぇ、なんでこ...
  • 日常小説に需要はあるか? -『傑作はまだ』感想

    「まだふっくらしてるよ。ここの大福、豆が本当にうまいんだ」 私が好きになる小説はいつも決まってなにかを食べている。物語のさして重要ではない場面で、丁寧に、とても美味しそうに。瀬尾まいこ『傑作はまだ』では大福が、主人公の加賀野こと〈俺〉と、生まれてから25年間一度も会ったことのない息子・智をつなぐある種のキーワード、いや、キーフードになっている。「人」を「良」くする、で「食べる」だ...
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佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。