苦味
  • 社会なんて人なんて -『料理なんて愛なんて』感想

    料理は、小学生のときに覚えた。 母がパートで夕方まで帰ってこないため、偏食の私が給食を残しておなかを空かせて帰ると、自分でなにかつくらなくてはならない。フライパンでハーフベーコンを4枚焼き、食パンに#の形にのせたらとろけるチーズも上にのせ、電子レンジで1分ほど。トースターでカリカリに焼くよりもこのふにゃふにゃ感が好きだった。名前はない。この名無しの創作料理を帰宅後はいつも一人で食べて...
  • 鼻は、人間の奥底につながる無防備な穴だ -『透明な夜の香り』感想

    千早さんの小説は高校生だか大学生だかの時分に『おとぎのかけら 新釈西洋童話集』を読んで以来だったんですけど、第一印象と変わらない、幻想的で蠱惑的な美しい文章でした。拠点となる洋館には主人公・一香以外の女性はおらず、調香師の朔、探偵の新城、庭を管理する源さんとまわりは男性が固めますが安易にハーレムとか唯一の女性である一香をチヤホヤしないそれぞれの距離感が絶妙で良いですね。 ...
  • 星空の下、わたしたちは幸せ -『星の子』感想

    !ネタバレ注意! 本記事は今村夏子『星の子』に関するネタバレを含む可能性があるため、作品を読了している、または作品のネタバレを承諾する場合のみ閲覧することを推奨します。以上のことに同意したうえでお楽しみください。 初読は2019年12月なんですけど、私年末に読書合宿してまして、そのとき読んだ5冊のうちの1冊だったんですねこれ。せっかく考察がはかどることに定評のあ...
  • 感想の思索、または詩作 -『坂下あたると、しじょうの宇宙』感想

    言葉について、小説について考える小説が好きだ。そんな理由で町屋良平『坂口あたると、しじょうの宇宙』を手にとったのだけれど、「好き」か「嫌い」かで問われたら答えるのが難しい。文体や展開に自分の考える「純文学っぽさ」がまんまあって、物語として見た場合に「おもしろかった!」とは言えない。言えないんだけど。 なんであたるの声だけ聞こえるんだ? おれたちの発する雑音に汚されても、こんなにハッキリし...

    2020年2月27日

  • 解明は解決にはならない、だけど -『家庭教師は知っている』感想

    青柳碧人『家庭教師は知っている』を読みました。学園ミステリーにとどまらず教師や生徒を主人公に展開する小説は数あれど、本書は家庭教師を主軸にした一風変わった「家庭訪問ミステリー」。家庭とは幸福な絆なのか、それとも、不幸の檻なのか。サクサク読めるのに考えさせられる良書でした。 原田は、首都圏で《家庭教師のシーザー》を運営する会社で働いている...
  • 嫌いだ、泣きたいほどに -『あなたの右手は蜂蜜の香り』感想

    片岡翔『あなたの右手は蜂蜜の香り』を読みました。私は普段「好きだ!」と思った小説しか挙げないし、感想にマイナスな表現は極力使わないようにしているのですが、……悩んだけど、本書にとってこの言葉を使うことは必要なことだと思うから。だから言います。私はこの小説、嫌い。 小説としては粗削り あたしのせいで動物園に入れられたクマの「あなた」を、必ず救い出す。ど...
  • ただ、今に一途であるということ -『こちらあみ子』感想

    今村夏子『こちらあみ子』を読みました。以前読んだ短編集『あひる』が上手く言葉にできないけれど衝撃的で、著者と作品を理解するにはもっと数を読みこむ必要があるのでは、とデビュー作である「こちらあみ子」を含むこちらの短編集にも手を出した次第です。結論を言ってしまうとますますわからなくなった。で、私はそういうまったくわからない小説が好き。 話題の『あひる』を読む前に ...

    2019年6月6日

  • 「鳥かえっこ(代替)」の物語 -『あひる』感想

    昔、どこかで見聞きした話。2人は母子か姉妹だった気がする。母(姉)はあるとき、娘(妹)にお守りをひとつ手わたした。大好きな母(姉)からもらったそのお守りを彼女は大切に身につけていたが、あるとき、なにかの拍子に中身が見えてしまう。中に入っていたのは折りたたまれた紙片。そこにはたった一言「死ね」と書かれていた……。 水面を優雅に泳ぐアヒルの水面下に隠された足は、しかしせわしく水を...

    2019年5月22日

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
読んだ小説の感想や考察を書いています。好きが高じて元小説家志望なので、一篇の物語のように心躍る記事が書ければ。ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれます。小説の他に哲学、美術、神話などの学術本も好きです。