苦味
  • ホラーとはなにか? – 宮田光『沼の国』

    胡仙フーシェンというキツネがいる。中国の民間信仰に登場する神通力を持ったキツネのことで、たとえば河北省滄州市の楽城県にあった県城の奎星楼には古くから胡仙がいると信じられている。この胡仙は酒を飲んで暴れたり不信心な者に危害を加えたりするとも、また良薬を与えたり盲人の目を見えるようにしてやるともいわれた。 同じように、私たちの国でも妖怪とは総じて凶事と吉事の側面を併せ持つ。まだまだ科学が...
  • 優しくするのが恋。赦すのが、愛。-『水たまりで息をする』感想

    高瀬隼子『水たまりで息をする』を読みました。読了から一晩経ちましたが、なんか、すごいものに出会ってしまったなぁという気持ちです。久しぶりに。初めて今村夏子の『あひる』を読んだときみたいな。とても現代的で、かつ寓話的でもあり、まさしく水たまりのような意図的につくられた芸術的な閉塞感。 そういえば、雰囲気は『星の子』に似ているかもしれない。あちらは狂気の中にも親子の愛情があったからまだ救...
  • 生は、見られて初めて「人生」になるのかもしれない -『エドウィン・マルハウス』感想

    1年前ぐらいに美容院で手すさびに読んでた雑誌に紹介されていた『エドウィン・マルハウス』やっと読めました。ミルハウザー作品は『私たち異者は』ぶり2冊目。ジェフリー・カートライトなる少年が執筆した評伝『エドウィン・マルハウス あるアメリカ作家の生と死(1943-1954)』という体裁で、傑作『まんが』を遺して夭折したエドウィンとその親友ジェフリーを通した子供たちの世界を描きます。 翻訳の...
  • 感動する、という未来は変わってしまったけれど -『いつかの岸辺に跳ねていく』感想

    !ネタバレ注意! 本記事は加納朋子『いつかの岸辺に跳ねていく』に関する考察記事です。作品の重要な部分または結末について触れていますので、作品を既読である、またはネタバレを承諾する場合のみ閲覧することを推奨します。また、記載される内容はあくまで筆者個人の意見です。 自分の中の一番きれいな場所に、そっと置いておきたいこの感情を、それでもやっぱり俺は、恋とか愛とか名付けて...

    2021年10月27日

  • 社会なんて人なんて -『料理なんて愛なんて』感想

    料理は、小学生のときに覚えた。 母がパートで夕方まで帰ってこないため、偏食の私が給食を残しておなかを空かせて帰ると、自分でなにかつくらなくてはならない。フライパンでハーフベーコンを4枚焼き、食パンに#の形にのせたらとろけるチーズも上にのせ、電子レンジで1分ほど。トースターでカリカリに焼くよりもこのふにゃふにゃ感が好きだった。名前はない。この名無しの創作料理を帰宅後はいつも一人で食べて...
  • 鼻は、人間の奥底につながる無防備な穴だ -『透明な夜の香り』感想

    千早さんの小説は高校生だか大学生だかの時分に『おとぎのかけら 新釈西洋童話集』を読んで以来だったんですけど、第一印象と変わらない、幻想的で蠱惑的な美しい文章でした。拠点となる洋館には主人公・一香以外の女性はおらず、調香師の朔、探偵の新城、庭を管理する源さんとまわりは男性が固めますが安易にハーレムとか唯一の女性である一香をチヤホヤしないそれぞれの距離感が絶妙で良いですね。 ...
  • 星空の下、わたしたちは幸せ -『星の子』感想

    !ネタバレ注意! 本記事は今村夏子『星の子』に関するネタバレを含む可能性があるため、作品を読了している、または作品のネタバレを承諾する場合のみ閲覧することを推奨します。以上のことに同意したうえでお楽しみください。 初読は2019年12月なんですけど、私年末に読書合宿してまして、そのとき読んだ5冊のうちの1冊だったんですねこれ。せっかく考察がはかどることに定評のあ...
  • 感想の思索、または詩作 -『坂下あたると、しじょうの宇宙』感想

    言葉について、小説について考える小説が好きだ。そんな理由で町屋良平『坂口あたると、しじょうの宇宙』を手にとったのだけれど、「好き」か「嫌い」かで問われたら答えるのが難しい。文体や展開に自分の考える「純文学っぽさ」がまんまあって、物語として見た場合に「おもしろかった!」とは言えない。言えないんだけど。 なんであたるの声だけ聞こえるんだ? おれたちの発する雑音に汚されても、こんなにハッキリし...

    2020年2月27日

Ranking
Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。