!ネタバレ注意!

本記事はイバン・ラピレ『深い穴に落ちてしまった』(白石貴子/訳)P106の〈暗号〉を解読する考察記事です。本編への直接的なネタバレにはなりませんが、この暗号は作品をより楽しむための重要なエッセンスなので既読かつ自力での解読が困難だと判断された方のみ閲覧することを推奨します。また、記載される内容はあくまで筆者個人の見解であり出版社および作者・翻訳者による公式な解答ではありません。以上のことに同意していただける方のみ続きをお読みください。

 

 

 

きゅうじゅうなな、にじゅうろく、さんじゅうに。

「きゅうじゅうなな、にじゅうろく、さんじゅうに。はちじゅうきゅう、ひゃくじゅう、に。さんじゅうなな、いち、はち。ろくじゅういち、よんじゅうさん、さんじゅうよん。ろくじゅういち、にじゅうきゅう、にじゅういち」

(P106/L14~16より引用)

 

さまざまな謎や寓意が緻密に散りばめられた『深い穴に落ちてしまった』。中でも物語終盤、憔悴した弟が突如口にしたこの不可解な暗号は印象に残っている読者も多いのではないだろうか。この暗号については訳者あとがきでも

 

本書にも、手がかりを読み解くとある文章が浮かぶようにこっそり工夫がしてある。どうぞお楽しみあれ!

 

と言及していて、感想を見てまわるとやはり暗号解読に挑んだ読者が散見する。私も読後さっそく解読を試みたのですが、いやぁ、ほとんどの読者が各所で嘆いているようにとにかく難解。というわけで、暗号解読が難航している方向けに解読方法および解答を書いてみました。ヒントにするもよし、解答を見てケリをつけてしまうもよし、ご参考までに。

 

 

 

暗号解読までの3STEP

1.数字にする

弟のセリフを素直に数字になおしてみます。基本ですね。

 

97,26,32   89,110,2   37,1,8   61,43,34   61,29,21

 

句点(「。」)で区切られているので、暗号は計5つの数字のグループであることがわかります。さらに、グループ内の3つの数字それぞれの役割を推理してみます。ここは直感で「章番号 , 行数 , 〇番目」と推測しました。ここで注意してほしいのは、

 

・行数には改行による空白は含まない。
・〇番目には句読点(「、」「。」)も含まれている。
該当する文字は必ずしも1文字ではない。

 

訳者あとがきでは「数字にはひとつひとつ、対応する言葉があるから、そのうちに数字だけでものが言えるようになるんだよ」という弟の言葉が手がかりとして引用されていますが、すまんあれは嘘だ。統一性はないです。なのでどこでどうピックアップするかが重要。まだ余力がある方はここで再度解読に挑戦してみては?

 

 

 

2.言葉を抽出する

実際に検証してみましょう。

 

97章26行目32番目は「群」。解答の最初の部分なのでまったく予測がつかず「群衆」あるいは「群衆だった」の可能性も残るのでひとまずここは様子見。

 

89章110行目2番目は「は」。単語にはならないので、あるいは読点前までの「は立ち上がり」。

 

37章1行目8番目は「れ」。前の「眠」は7番目で「眠れ」とはならないのでこれは1文字扱いで確定。

 

61章43行目34番目は「そ」。文章で捉えると長くなるのでせいぜい「そうでなければ」までかな?

 

61章29行目21番目は「穴」。あるいは「穴のなか」「穴のなかで灰になるだろう」。解答の最後の部分なのでこれはここまでの文章の流れを見つつ選べばいいでしょう。

 

 

 

3.文章として組み立てる

あとは文章になるように直感と消去法でカチャカチャ組みあわせていくだけ。答えあわせ記事なので単刀直入に答えを言ってしまいますが、

 

群衆 は立ち上が れ そうでなければ 穴のなかで灰になるだろう

 

という文章が完成します。

 

 

 

灯台下暗し?

じつはこの文章、なんと表紙カバーの左袖中央にすでに書いてある

 

まぁ、これが答えなのかは定かではないものの、読了前に目を通していただけに、うーん、これは拍子抜け。あと翻訳の都合を考慮しても解読方法がちょっと複雑なのでは…みなさんはどう感じましたか?

 

 

2018年6月6日に加筆修正しました。

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。