楡周平『プラチナタウン』を読了。知人が最近推しつつある作家で便乗して私も1冊読んでみました。経済小説?ビジネス小説っていうんだろうか。政経とかこの世で一番興味のないジャンルだったことを途中思いだすもあとのまつり。うにょうにょ読んでしまって読了まで1週間以上かかってしまった。でも、まるで興味のないジャンルをわざわざ1週間もかけてしかも読みきったというところに作者のただならぬ力を感じる。魔術師かなにか?

 

 

 

理不尽アンド不憫

出世街道を外された総合商社部長の山崎鉄郎は、やけ酒を呷り泥酔。気がついた時には厖大な負債を抱えた故郷緑原町の町長を引き受けることに。だが、就任してわかったことは、想像以上にひどい実情だった。私腹を肥やそうとする町議会のドンや、田舎ゆえの非常識。そんな困難に挫けず鉄郎が採った財政再建の道は、老人向けテーマパークタウンの誘致だったのだが……。

 

※あらすじは祥伝社HPより引用・一部編集しました。
http://www.s-book.net/plsql/slib_detail?isbn=9784396336899

 

冒頭からしょうもない理由でネチネチ上司に目をつけられ、旧友からは借金まみれの町の町長になってくれとじわじわ外堀を埋められ、追いつめられる主人公・山崎。理不尽アンド不憫。わずか数ページのうちに「あ、これは応援しなきゃいけないやつ」という謎の使命感に駆られあっというまにどっぷり感情移入してしまいました。カマタケことくそジジイがしゃしゃってくるたびに一緒になって「このくそジジイ!」とイライラしていたので渡部さんの根性焼きと啖呵には思わずガッツポーズ。やったぜ。

 

そして目を瞠るのが構成の妙。冒頭でもお伝えしたとおり政治や経済に疎いもので、こういう本格的なビジネス小説というのはまったく読んでこなかったんだけど、専門的な部分はキャラクター同士のかけあいを駆使して易しく丁寧に、ストーリーもクエスト受注→探索→ボス戦→新たなクエスト発生とゲームさながらのシンプルな構造で書かれているからズブの素人にもわかりやすくて内容がスルスル入ってくる!

 

山崎は最後「満足感」という言葉を使ったけれどそれは読者も同じ。人はどんなところにいても輝ける。山崎や四井の人々の柔軟な発想に勇気と元気がもらえる1冊でした。

 

 

 

 

プラチナは誰のもの?

「(前略)介護施設といっても、体のいい病院か、ビジネスホテルといったところばっかりなんですから。あれじゃ飽きちゃうし、第一、気が滅入ります」

(P419/L7~9より引用)

 

数年前、祖父が老人ホームに入居しました。

 

6畳ほどの部屋に、あとは、お風呂とトイレ。かつては2LDKの家で自炊をして、庭先にやってくる野良猫にエサをやり、椅子にどっかりと腰をおろしタバコをふかしていた祖父は、この頃、なんだか元気がなくなって、ぼんやりしていて、身体も弱くなったように感じます。

 

祖父を老人ホームに入居させるまでのゴタゴタを末の娘である母のそばで見てきたので、母や伯父たちの気持ちもわかる。

 

「児玉さんもそう言ってましたね。現代は分業の時代だ。介護もやはりプロに任せるのが、年寄りにも家族にも結局一番いいんだとね」

(P319/L12~13より引用)

 

親とて自分とはまったく別の人間なのだから、意見も価値観も異なるし、親子だから理解しあえるとは言いきれない。なにが最適な選択なのかはきっと家族によって違う。絶対的な正解なんて存在しない。わかっているのだけれど。

 

「(前略)シルバーなんてありきたりなもんじゃない。ゴールドよりももっと価値のあるプラチナ。そう、まさにプラチナタウンですよここは」

(P465/L13~14より引用)

 

終の住処――老人ホームって誰のためのものなんだろう。

 

入居する人のため?
それとも、入居させる家族のため?

 

双方にとって「ここでよかった」と思える“プラチナタウン”が、本当に、現実にあればいいのに。だって、祖父も、母も、伯父たちも、みんなが安心して、笑っていて、つながっていてほしい、孫であり娘であり姪である私としては。

 

 

 

楽しみかた無限大

門外漢がなけなしの実体験にのみ頼って書いた感想でしたが、いかがだったでしょうか。

 

おそらくジャンルとしては「ビジネス」だとか「サクセス」「政治」「経済」に分類されるのでしょうが、クマケンやカマタケ、四井の人々など、一癖も二癖もある魅力的なキャラクターたちと山崎のかけあいを見ているだけでも充分おもしろいし、〈復興〉や〈老い〉といったテーマへのアプローチとして読んでも得られるものがたくさんあるので、私のように社会は算数の次に嫌いだった…という方もまずは思わず応援したくなっちゃう山崎の理不尽アンド不憫な第1章を読んでみてはいかがでしょうか。がんばれ山崎。負けるな山崎。そして私の老後もプラチナタウンでぜひ面倒見てくれ山崎。

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。