突然小テストをはじめてしまってごめんなさい。一般常識を知りたかったんです。解答欄、埋めてくれました?やっぱり『どこにいる?』とか『こっちもついたよ!』が正解ですか?ですよね?それでは答えを確認してみましょう、こちらです。

 

『ついた!』

『俺は?』

 

訊くな。

 

恋人とはもう5年以上のつきあいになるけれど、とにかく彼は待ちあわせの時間を守らない。『もうすぐつくよ!』と送ればなぜか『俺はお風呂なう!』と返ってくるし、あるとき珍しくむこうから『今からむかう!』とメッセージが届いたかと思えば空白の数十分があってふたたび『今からむかう!』と送られてくることもある。待ちあわせの時間を提案してくるのはむこうなのにだいたい1時間は遅刻するのがデフォルト。沖縄県民には「ウチナータイム」という独特の時間感覚があって約束の時間に来ることは基本的にないと聞いたことがある。ちなみに彼の出身は栃木県です。

 

某日、U駅。

 

コンコースの片隅で読みかけの小説を開いていたら、視界の端に、こちらにトコトコ近づいてくる人影を捉える。その日は30分の遅刻だった。5年も遅刻されつづけるとこういうとき「なんだ、今日は早いんだ」となぜかガッカリした気分になる。慣れってこわい。だいたい、私からは家を出た時点で一度連絡を入れているんだし、そのときにはしっかり起きていたんだから、逆算して時間を調節することもできたはずなのに、それをふまえての30分。「お待たせ」とか「すまんな」の一言くらいあってもいい。

 

「おはよー」

 

実況者「なかったーーーーー!」

 

なかったし、髪はちょっとぬれていた。

 

実況者「これはどういうことでしょうか」

解説者「間違いなくこの30分で風呂に入ってきたパターンですね」

 

私の脳内実況席は沸いていたけど、まるで遅刻などしていないかのような自然な挨拶だったので、つい、現実の私は普通に挨拶を返してしまう。

 

「……おはよう」

「さっきお風呂入ってたらさ」

「うん(おい)」

「ウチの猫に覗きされた」

「え」

「これが証拠写真」

「ほんとだ」

「変態なの、あの子」

 

そしてはじまるいつもどおりのやりとり。差しだされたスマートフォンには風呂場の扉からこちらを覗く変態猫のかわいいどんぐりまなこが映っていた。

 

「おなかすいた」

「とりあえずごはん食べに行こうか、なに食べたい?」

 

こうして今日もまた、私は、怒るのを忘れる。

 

「米系かなぁ」

「俺は?」

 

訊くな。

 

おしまい。
ただし、遅刻され風呂に入られ「俺は?」と意味不明に訊かれる私の受難はつづく。

 

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
読んだ小説の感想や考察を書いています。好きが高じて元小説家志望なので、一篇の物語のように心躍る記事が書ければ。ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれます。小説の他に哲学、美術、神話などの学術本も好きです。