seat theater photo

 

 

 

※小説の感想記事はこちら:
http://13.114.91.99/2016/06/07/yonaka-inu-ziken/

 

※記事を読む前に必ずご確認ください。

 

この記事は舞台の演出や内容に触れた、
ネタバレを多く含む観賞レポになっております。
以降【反転】や赤字ネタバレの注意喚起を行いませんので、
読者様各自でご判断いただきお読みになるようおねがいします。

 

また、この記事は公式HPに記載の作品公開期間より投稿日前日
7月1日に公開が終了したことを確認したのち公開しております。

 

 

 

人生で一度は観たほうがいい


 

2016年6月25日、
シネ・リーブル池袋で公開された
ナショナルシアター・ライブ『夜中に犬に起こった奇妙な事件』
MugitterやTwitterで宣言していたとおり観に行ってきました!

 

以前小説の感想記事でも書いたとおり、
作品を知ったきっかけはこの舞台版の公開情報。
興味はあったものの2月の日本橋での公開期間には機会に恵まれず
原作小説を読むだけにとどまりましたが池袋でふたたび機会に遭遇。

 

Twitterで公開情報を追っていると、
方々から「人生で一度は観たほうがいい舞台」と絶賛されており、
今回の機会を逃してはいけないと前々から楽しみにしていました。

 

 

 

公開期間は6月25日(土)~7月1日(金)までのわずか6日間。
観れるとしたら初日の25日土曜日だけがチャンスでした。

 

備えあれば憂いなしということで、
チケットはネット予約で事前に購入したのですが
購入時点(当日朝)で席が結構埋まってまして(!)、
ギリギリセーフで観れたのは奇跡だったと思います。
(当日券だったら入手できなかったかもしれません)

 

 

 

観賞後の率直な感想を言いますと、
ただ、もう、「衝撃を受けた」の一言に尽きます。

 

当初はTwitterにて「観ました」と
報告するだけのつもりだったのですが、
あまりに衝撃的かつ感動的だったので。

 

企画記事として感想をまとめてしまいました(´>ω∂`)テヘペロ☆

 

 

 

最小限で最大限に魅せる


 

なによりまず驚いたのは舞台の小ささでした。
テニスコートかバスケットコートぐらいの面積だったと思います。
しかも360℃ぐるりと客席が段々になって客席を囲んでいるという仕様。

 

役者はおよそ10人前後。
大道具は長方形の白い椅子だけ。

 

信じられますか?
たったこれだけで原作に登場する、
家、駅、教室、電車、宇宙ですら
ものの見事に描いてしまったんですよ。

 

風景描写だけではありません。
作中の地図や記号や数式まで忠実に再現されていました。
どうやったと思います?床ですよ?舞台の床に再現するんです。

 

私は舞台というものは
映像で数えるほどしか観たことがありませんが、
そんなみみっちい舞台の固定観念(笑)なんかは
もう一瞬で丸々ごっそり覆されてしまいました。

 

あの光景を思いだすたびに、
「洗練された」という言葉を思いだすんです。
シンプル・イズ・ベスト…とはちょっと違いますね。
最小限で最大限に魅せる、といったところでしょうか。

 

 

 

原作を尊重した“舞台ならでは”


 

パンフレットには、

 

クリストファーの好きな数学の問題、
シャーロック・ホームズの引用、
その他様々な要素が振るいにかけられ割愛された。

※劇作家・演出家の青木豪氏による文章より引用しました。

 

というようにありましたが。
物語的には原作とほとんど相違はなかったように感じました。
割愛の仕方が自然で本編の表現力が濃厚だったためでしょう。

 

だからといって、
舞台版がただの小説の具現化なのかというとそうではなく。
原作と大きく異なったのは構成面だったように思うのです。

 

 

 

個人的にもっとも「原作と違うな」と
感じたのは物語の体感スピードでした。

 

なんというかシーンがめまぐるしく変わるんですよ。
だけどどのタイミングで場面が変わったかは明瞭で。
編集の上手い映像でも見ているような感覚でしたね。

 

同じ情報量であるはずなのに
小説ではなんだか遠まわりのように感じて、
舞台ではどこかめまぐるしいように感じる。

 

この体感スピードの差って、
クリストファーを想像することと目の前にすること。
この違いからくるものなんじゃないかと思いました。

 

 

 

また、
意外だったのはシボーン先生の存在感。
舞台では原作の何倍も登場シーンがあるんですよ彼女。

 

クリストファーの一人称で綴られる原作ではわかりづらいですが、
先生の存在・教えが彼の中では1つの指針になっていたんですね。
これも舞台で実際に彼を見なければわからない発見の1つでした。

 

 

 

それからやはり特筆すべきは“付録”の部分でしょう。

 

原作末尾に“付録”として添付された、
クリストファーが好きなあの数学問題。
舞台版では“カーテンコール後”に置きかえられて継承されていました。
これには観客席から笑いがあふれていて私も思わずほっこり(´∀`)

 

観客からの鳴りやまない拍手の中で問題を解説するクリストファー。
あの一幕こそ“舞台ならでは”の素敵なアレンジだったと思います。

 

 

 

映画化されない理由


 

「また何度でも観たいなぁ」と思って調べてみたのですが、
今のところDVDなどの映像化はされていないようです。
現地へ飛んで実物を観るしか手段はないのですね…うう。

 

パンフレットいわく、

 

実は映画化の噂もあり、
『ハリー・ポッター』シリーズの脚本を手掛ける
スティーヴ・クローヴスが監督を務めると言われていたが、
残念ながら今のところ新しい動きはない。

 

と映画化の噂もあったようです。

 

ですが今こうして舞台を思いかえしてみると、
映像化されなくてよかったんじゃないかって思うんです。

 

 

 

以前小説の感想記事では、
「みんながそれぞれに優しさが空回りしている」と書きました。
誰かもを特別擁護しない中立的なおはなしだと思うんですよ。

 

だからこそ、
舞台(小説の場合は想像)という限られた空間と情報で、
観客(読者)1人ひとりが想像することがきっと大事で。

 

彼らはなにをどう思っている?
そこにはどんな事情があった?
わかりあうことはできるのか。
これからどうするべきなのか。

 

そのときもっとも有力な情報となりうるものは、
なにより自分自身が肌で感じたことなんじゃないでしょうか。

 

彼らと同じ立場になって考えること。

 

安易に映像化されない理由は、
彼らの世界に1人ひとりが参加することに
意義があるからなのではないでしょうか?

 

 

 

だから私も次にまたこの舞台を観る機会を得るとしたらそれは、
現地で実際にこの舞台を観る機会であるべきだ、と思うんです。

 

とりあえず英語を勉強します。
あ、洋書版の原作を読んでみるっていうのもいいですね。

 

映画情報に関しましてはこちら:
ナショナルシアター・ライブ『夜中に犬に起こった奇妙な事件』
http://www.ntlive.jp/curiousincident.html

 

 

洋書も売っている…だと…!?(;゜Д゜)

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。