風カオル『ハガキ職人タカギ!』を読了。タイトルからこってこてのギャグを想像していたのだけれど、思っていたより平穏で、悩んで、青春していました。私も中学時代はラジオ聴いていたなぁ。bayfm。当時ファンだった嵐の二宮君がラジオをやっていて、今でもラジオ聴くときはその名残でbayfm聴いてしまう。毎週ラジオを聴きながらノートに放送内容をメモしたりしていたっけ。なつかしい。え、今なお放送続いているの?すごい。

 

 

 

フルーチェは好きかい?

広島県在住の高校二年生、高木正広は、筋金入りのラジオ番組のハガキ投稿オタク。今日もネタ帳とにらめっこ。クラスの女子は気味悪がって近寄ってこないが、そんなことは全く(全くでもないが…)気にならない。厳選したネタを、深夜のラジオ番組に投稿することが使命なのだから。深夜ラジオでは、ちょっと名の知れたハガキ職人。ラジオネーム・ガルウイング骨折として、全国のラジオリスナーにその名を轟かせている。そんな高木が東京のハガキ職人たちと対決することに。運命の歯車が狂い出す。

 

※あらすじは小学館Webサイト(https://www.shogakukan.co.jp/books/09406156)より引用しました。

刊行当初だから…3年前?にチラとタイトルを聞いて気になっていたものの、書店でなかなか出会えず、脳内タスクから消えかけていたこの頃になってようやく文庫化されているのを発見。わくわくしながら読みました。

 

生まれも育ちも関東なので、主人公の高木や榊さん、白井、弟クンの広島弁は新鮮だったけど、するりするりと読める自然なテンポで読了まで2日間とあっというま。教室では存在感薄め、よくて深夜ラジオの“ハガキ職人”、というパンチ力弱めな主人公・高木をはじめ、唯一の友達は声優とゲーム好き、ヒロインは美少女じゃない――どこまでも地味でひかえめな世界観が好印象。

 

ただ、物語の鍵となるシャッチョさんや「面白くない」(と高木が思っている)クラスの人気者・長谷川までもチャラさや意地悪さといったお決まりの悪役感がないので、ネタや笑いをテーマにしながらも痛快感、爽快感、メリハリのたりないぼんやりしたおはなしで終わってしまったのが不完全燃焼でした。終章も蛇足っぽくて。爽やかな酸味がありながら全体的にはもったりとしたフルーチェみたいな読後感です。フルーチェ好き?そもそもフルーチェって味どんなだったっけ。食感しか覚えてないわ。

 

 

 

笑いに犠牲はつきものだ、けど。

それでは、何がスクールカーストの序列を決定づけているのか。「コミュ力」、すなわち「コミュニケーション・スキル」である。ただし、ここでいう「コミュ力」とは、場の「空気が読め」て「笑いが取れ」るような才覚のことを意味している。

(斎藤環『承認をめぐる病』P24/L5~7より引用)

 

「おもしろい」っていつから人気者の必須条件としてステータス化されたんだろう。それも、今台頭しているのは
〈毒舌〉という都合のいい化けの皮=キャラをかぶった“イジり”。今風の言葉だと「disる」というんですか。

 

つまり、榊さんは「自分の悩みを吹っ飛ばすくらい笑えれば良し」と言っているのだ。それがたとえ、自分をネタにしたコーナーであろうと。

だが、それが笑えなかった時は。

すうっと背筋が寒くなるのを感じた。榊さんは笑っている。

(P120/L16~P121/L1~3より引用)

 

巷には『りはめより100倍恐ろしい』というインパクトあるタイトルの小説があるけれど、毒舌とイジりは明確に違うと思う。

 

毒舌が上手い人、成立している人というのは、榊さんが言うように対象の人までもを笑わせるほどの清々しさがある。一方でイジりの渦中にある人はそれを笑いとばすことはできない。それは笑いの体をとったイジめ、いや、それ以上の仕打ちだから。テレビで〈毒舌キャラ〉が成功しているのは、まわりも皆が場慣れしたプロだからだ。素人がこれを真似したところで、毒を吐くほうも素人なら、吐かれるほうもまた毒を心得たプロではない、当然、失敗する。

 

誰かを傷つけてしまうかもしれない。そんな仮の話で何もできないなんて、やっぱり、ただ自分が怖いだけだ。

(P173/L8~9より抜粋)

 

誰にでも受け入れられる笑いなんておそらくこの世にないだろう。だけど、だからある程度の犠牲を覚悟する、というのは、誰かを吊るしあげて笑いをとれ、という意味じゃない。笑わない人がいるのは仕方のないことだ。だけど、それでも己には負けずに挑み続けろ、ということなんだと思う。「笑われる人」を生みださず。「笑っている人」にかこまれている人が、本来なら、人気者になるべきなのに。

 

 

 

“ハガキ職人”は今もどこかに

今や「ハガキ職人」といってもピンとこない世代もいるでしょうが、最近だと「ボケて」だとか、今年4月に放送終了してしまいましたがNHKの「ケータイ大喜利」の常連がその存在に近いのでしょうか。死語じゃありません。絶滅していません。ラジオ以外にも投稿する場が増えたことでむしろ増えているかもしれない。

 

上記のような素人の“大喜利”、Twitterのおもしろいツイート、コピペなど見るのが好きな人には楽しめる作品なのではないでしょうか。

 

【ひょんなことから500年後の日本へタイムスリップ。どんな様子?】

 

「えー、『三井住友ビザ三菱東京UFJ銀行』」
「合併しすぎ!」

(P70/L2~3より引用)

 

好き。

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。