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このあいだ某所で食事したときのこと。

 

店のマスターとおはなしをしていたとき、
〈人間の世界は人間が作っている〉
というようなおはなしを聞いたのですよ。

 

これは私も常々感じていたことで。
人間はすべての事象を人間の知識内で定義してしまう。

 

たとえば宇宙人の存在。
テレビ番組などでは“科学的”に否定したりしていますよね。
私は宇宙科学には明るくないので詳しいことはわかりませんが、
ああいうのを見ているときに「本当なのかな」と思ってしまうのです。

 

専門家の方々がおっしゃるのはあくまで〈人間の知識〉。
果たしてその〈人間の知識〉は〈世界の真実〉なのでしょうか?
人間が定義したことは人間だけの定義でしかないと思うのです。

 

都市伝説や幽霊、宇宙人、すべてを過信してもいないのですが。
人間の想像もつかないことが存在するだろうなとは思っています。

 

さて、今回はそういうわけで宇宙人にまつわるおはなし。
知念実希人氏の『スフィアの死天使』(※)の感想です!
(※編集の関係で書名を省略させていただいております)

 

 

 

***

 

内科医を志す元外科医の小鳥遊優は、
恩師の勧めで天医会総合病院にある〈統括診断部〉へ派遣される。
統括診断部長にして新たに小鳥遊の上司になったのは天久鷹央。
この女上司、最凶のKYにして最強の頭脳をもつ天才女医である。

 

「宇宙人による洗脳」を訴える患者。
院内で起きたある医師の殺人事件。
浮かびあがってきた謎の宗教団体。

 

病気が引き起こす「はじめての事件」。
日本最高峰のその頭脳に解けない病気(ナゾ)はない。

 

***

 

 

 

シリーズ4作目にして初の長編小説。
シリーズ化短編集の長編小説で当たりを引いたことがあまりなくて、
今回も若干不安がありつつおそるおそる読んだ感じだったのですが
文章も読みやすく構成もしっかりしていてまったく問題なかったです。

 

 

 

今作は柱となるテーマが3つほどあって、

 

①「宇宙人による洗脳」を訴えた患者の謎
②宗教団体とその関係者をとりまく様々な問題
脳死問題から考える〈人間はいつ死ぬのか〉

 

※③についてはネタバレ注意な事柄のため白字表記です。
※ネタバレの可能性有でもOKな方のみ反転で御確認を!

 

これら3つのテーマが“議論”されながら提示されていくので、
読むのをとめて自分で考えてみたり納得しながら進めました。
給水ポイントというか、こういう緩急のあるテンポ、良いですね。

 

 

 

〈宇宙人〉というSF的要素×医療ミステリーという組みあわせは
ロマン(?)もありながら現実的な推理も展開されワクワクします。

 

うん、まぁ定義はいろいろだと思うけど、
『心』ってやつは突き詰めれば
外部からの刺激に対してどう評価を下し、
どう反応するか選択することだって俺は思うんだ。

 

こういうのを読むと、
〈心〉って脳にあるのかなと思うんですけど
じゃあどうして「脳」と「心」それぞれ独立した言葉があるの?
医療ミステリーでそんな哲学的なことを考えてみたりもして。

 

あいつはこれから現実に向き合わないといけないんだ。
残酷な現実とな。
ここで誰にも頼らず自分一人で乗り越えないと、
あいつはきっと一生『大宙神光教の被害者』のままだ。

 

宗教を信仰している人はうつ病になりにくいことが判明している。
某まとめサイトでこのことについて議論(批判?)されていました。

 

たしかに心の拠り所があれば、
ある程度の苦しみは回避できるのかもしれない。
だけどそうしなければならないほど心が追いこまれているわけで。

 

神の存在や宗教自体を丸ごと否定するわけではなくて、
神はいるかもしれないけど今生きているのは自分であること。
神の与えてくれた現実と向き合っているのは自分だということ。
そういう線引きが必要であることを忘れてはいけないと思うのです。

 

※以下、上記③に触れるためふたたび白字表記になります。

 

そう、答えは出ていないんだよ。
心臓が止まった時、脳死になった時……
はっきりとした線引きはない。
(中略)
日本だと基本心臓死なのに、
臓器提供の意思がある時だけ
脳死を人の死として認めるなんていう
わけの分からない状態だ。
誰も、なにをもって人が『死んだ』と定義するべきなのか、
万人が納得する解答なんて持っていないんだ。

 

価値観というものは人間1人1人が別々に持っていて、
どんなことにも良いところがあって悪いところもあって。
だから本当はすべてのものに“定義”なんてできないと思う。

 

僕にはなにが正解なのか断言はできない。
いや、そもそもそこに正解など存在しないのだろう。
だからこそ医療に携わるものは常に悩み、
自分なりの考えを持ち続けていかなければならないのだ。

 

正解がないかわりに私たちには、
相手の話を聞く・話し合う・理解しようとするという手段がある。
自分と相手、ときには周囲の考えまでを知り、双方が理解しあう。

 

 

 

下は好きな歌の歌詞からの引用ですが。

 

誰も彼もが人生の初心者だから
答えなんかは無いけれど幸を願おう

 

わからないことはたくさんあるけれど。
真実を知るよりも手の届く人たちの考えをまず知ること。

 

きっとそれは、世界中の誰もができることのはずだから。

 

 

歌詞はこちらの曲から引用しました。

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。