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幸運なことに、
私はこれまでの人生で一度も
手術というものをしたことがありません。

 

中学生のときに一度、
膝の裏に水が溜まったとかでコブができたことがあり、
水を抜くのに注射を3本ほど刺されたことはあります。

 

うつぶせに寝て打ったので直接は見ていないし、
麻酔もしたので痛くはなかったはずなのですが、
やだ!」「怖い!」と号泣して暴れたのを覚えています。
注射でああなんだから手術とか聞いたら卒倒してしまう…。

 

医療ドラマやスプラッター映画、
怪我をしているシーンや話もダメですね。
想像すると同じところがぞわぞわしてきます。
ミラータッチ共感覚のようなものでしょうか。

 

そんなわけで、
今回は手術にまつわるおはなしです。
知念実希人氏『幻影の手術室 天久鷹央の事件カルテ』読了です。

 

 

 

シリーズきっての元気娘が殺人犯?


 

 

手術後のオペ室で起きた医師死亡事件。
記録用のビデオに録画されていたのは、
一人の麻酔医が「見えない誰か」と必死に格闘し、
その末に絶命する場面だった。

 

手術室は密室。
容疑者は全身麻酔で身動きのとれない患者のみ。

 

西東京市・清和総合病院で起きた不可能犯罪に対し、
天才女医・天久鷹央(あめくたかお)は独自の捜査に乗り出すが……。

 

事件に隠された“病”を解き明かす、本格医療ミステリ。

 

※あらすじは新潮社HPより引用しました。
http://www.shinchosha.co.jp/book/180076/

 

 

 

シリーズ6作目の長編第2弾ですね。
過去作の感想記事は以下リンクからどうぞ!

 

『天久鷹央の推理カルテ』はこちらから。
『天久鷹央の推理カルテⅡ』はこちらから。
『天久鷹央の推理カルテⅢ』はこちらから。
『天久鷹央の推理カルテⅣ』はこちらから。
『天久鷹央の事件カルテ』(長編1作目)はこちらから。

 

 

 

実際に読んでみた感じ、
メインキャラ(鷹央、小鳥先生、鴻ノ池)の関係性さえ
事前に把握できていれば初見の方でも単体で読めそう。

 

連作短編がメインのシリーズって
長編で出ると「あれ?」というときがあるのですが、
過去作同様に読みやすく考えさせられる1冊です。問題ナシ。

 

 

 

今回は主人公・小鳥先生を悩ませる
シリーズ屈指の トラブルメーカー 元気娘こと
鴻ノ池舞がなんと殺人の容疑をかけられてしまいます!

 

私は正直、
過去作のとある描写がきっかけで
鴻ノ池のことが好きではなかったので、
最初こそザマァm9(^Д^)とか思っていました、が。

 

鷹央や小鳥先生の毅然とした態度や
鴻ノ池本人のしおらしい姿を見ているうちに、
気がつくと「鴻ノ池、気をしっかりもつんだ…!」と
結局なんだかんだで応援してしまっているんですよ。

 

悔しいですが、
知念氏の筆力はこういうところが憎くて魅力的です。

 

 

 

余談ですが、
戸隠先生とかいうドストライクな有能イケオジが
序盤以降あんまり見せ場がなくて非常に残念です。
黒部先生の一件で見せる内心なに考えているのか
わからない一面も強キャラっぽくてよかったのに!

 

あ、そういえば水無月先生もだいぶ出番ないですね。

 

 

 

まるで誰かと取っ組み合っているように


 

 

「耐えないで、戦うんだ。愛想笑いで誤魔化すな。
波風を立てることを恐れるな。
相手が嫌なことをしてきたら、
はっきりと不愉快であることを伝え、
二度とやらないように警告するんだ」

 

戦う。
今回のおはなしはこれがキーワードだったように思います。

 

鷹央や小鳥先生をはじめ、
焦点が当たる登場人物たちはみんなそれぞれに、
相手は違えどなにかと戦っているように見えて。

 

真実や現実、権力、恐怖。
それは形のない幻影のようなもので。

 

小鳥先生に「空気が読めない」と評され、
敵が多い鷹央の言葉だからこそこの言葉には力があるし、重い。

 

たしかに鷹央の言うことは正論だ。
ただ、正論が“正しい”かと言うと、それはまた別問題なのだ。

 

医療の現場はとくに、
正論、あるいは、感情論だけでは
どうにもならない局面が数えきれないほどあるでしょう。

 

こういう人間の本質的なテーマは、
生命を見つめる医療の分野でだからこそ
リアルに、繊細に、描けるのだと思います。

 

 

 

戦いの末に選択するもの


 

 

このあいだ、
「LIFE IS STRANGE」というゲームをやりました。

 

あるとき突然時間を巻き戻せる能力を手に入れた主人公が、
数年ぶりに再会した親友の死を回避したことをきっかけに、
さまざまな場面で“選択”をし過去・現在・未来を決める。

 

選択した行動が後々どう影響するかは
時間を操ることでシュミレーションできるし、
基本的にプレイヤーの意思で自由に行動できるのですが、
何度も時間を巻き戻したりしているうちにわからなくなるんです。

 

なにが〈正解〉でなにが〈間違い〉なのか。
これは自分で決めた行動なのか誰かのご機嫌うかがいなのか。

 

最後の選択肢では、
もう“選択する”という行為そのものが怖くなって。
ここまでの選択、感情、倫理と論理…いろんなものが
頭の中でグルグルしてそれこそ戦っているようでした。
ゲームを終えた今でもあのエンディングでよかったのか考えます。

 

 

 

自分にとって最後の選択肢が、
いつどこでどんなふうにあらわれるかはわかりません。

 

いつかその瞬間を迎えたとき、
正論とか感情論とか正しいとか間違いとか。
私はそうしたあらゆる意思の戦いにそのときこそ、
確固たる答えを1つ選びだすことができるでしょうか。

 

鷹央のような信念。
鴻ノ池のような強さ。
小鳥先生のような純粋さや、
野乃花や八巻のような勇気で。

 

湯浅のように、死と対峙した、最期の力で。

 

 

本文中で紹介したゲームの詳細はこちら。

 

公式サイト:
http://www.jp.square-enix.com/lis/

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
読んだ小説の感想や考察を書いています。好きが高じて元小説家志望なので、一篇の物語のように心躍る記事が書ければ。ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれます。小説の他に哲学、美術、神話などの学術本も好きです。