加納朋子『カーテンコール!』を読了。表紙と帯裏に印字されたあらすじに惹かれて手にとり、そういえば大学時代に友人が好きな作家の1人として名前を挙げていたなぁとなつかしく思いながら購入した1冊ですが、もう、最高によかった!最後には涙ドボドボこぼしていました。生涯本棚に収めること決定。今はもう連絡をとることできなくなってしまったけど、彼女はこれ読んだのかなぁ。「最高だった!他の作品も読む!」って、たった一言だけでもいいから伝えたいな。

 

 

 

慈愛の光を浴び、今、咲き誇れ。

経営難で閉校が決まっていた萌木女学園。とにかく全員卒業させようと、課題のハードルは限界まで下げられていたのに、それすらクリアできなかった私達。もう詰んだ。人生終わったと諦めかけた矢先、温情で半年の猶予を与えられ、敷地の片隅で補習を受けることに――。でも、集まった生徒達は、さすがの強者「ワケあり」揃い。こんな状態で、本当にみんな卒業できるの?

――帯裏より

 

前述したとおり初読の作家。不安な気持ちもありましたが書店で連れに帯裏のあらすじを見せながら「これどうかな?」と訊いてみたところGOサインが出たので読んでみたら、もう、最高によかった!(2回目)

 

自転車で坂道をくだるような軽やかな文章で、オタク女子・真実が主人公の3編目「永遠のピエタ」ではオタクのあるあるとツボを押さえつつ、5編目「プリマドンナの休日」では自然に寅さんネタ。知識の年代が幅広すぎる。著者プロフィールを読んで衝撃を受けました。歳の近いウチの母親なんてたぶんオタクがどういうものなのかイマイチ把握できていないと思う。目の前にいる自分の娘が軽めにオタクしているというのにね。私が部屋を空けているときテレビもベッドも自由に使っていいけど勝手に目覚まし時計持ちこんでフィギュアとならべてそのまま忘れていかないでくれる?鏡音レン・鏡音リン・目覚まし時計のならびに毎回「!?」ってなるわ。

 

次項に各話詳しい感想を載せますが、それぞれの“強者”たちが個々に抱える事情はなかなかに難しい問題でありながら鬱々とはさせず日常生活や人との対話・コミュニケーションをきっかけに改善させていこうとするストーリーラインが慈愛にあふれていて素敵でした。私も学生時代は彼女たちと似たような境遇にあったので、こんな補習合宿があったら、受けてみたかったな。

 

 

 

あなたは素晴らしい

砂糖壺は空っぽ

中2のとき、〈僕〉は同じ塾に通う〈ミエちゃん〉に出会った。制服にスカートではなくズボンを選び、杖をついて歩いていた、ちっちゃくてかわいい女の子。あるとき、彼女が義足であること、幻肢痛に悩まされていることを知り、尊敬と畏怖と憧れと、僕の複雑な思いをこねた感情はいつしか恋へ変わっていったのだが――。

!ネタバレ微注意!
ネタバレになる可能性のある文章なので一部を白地表記とさせていただきます。

 

最初、大学陣営の誰かのおはなしなのかな?と思いつつもなにか違和感を抱えながら読んでいて、ああなるほどと納得、最後にガツンと殴られるような衝撃があって、電車の中で読んでいたのだけど、感極まって涙こぼれるところだった…危なかった。

 

物語の核心部分をミエちゃんの義足とかけあわせたのはとても巧かった。明らかな違和感を感じながらもどうしようもなく自分の一部である…知識としてわかっていたつもりだったけど、うん、そうだね、このおはなしを読んで〈僕〉やミエちゃんに象徴されるような人たちをより身近に感じることができました。

 

最近兄夫婦に子供ができまして、将来自分にも子供が生まれたとき、名前をつけるとしたらどんな名前がいいだろうなんてぼんやり考えることが増えたのですが、自分たちの想いを押しつけるのではなく、誠実に、真摯に、本人のことを想った名前をわたしてあげることができるといいな、と切に思いました。

 

ところで恋を自覚してからの〈僕〉の言動めちゃくちゃわかりすぎるぅ!恋の悩みは老若男女誰にとっても共通ですね。人を恋しく想えるって素敵なこと。このあいだ友人の家でみきもと凜氏による漫画『近キョリ恋愛』を読んだんですけど、主人公が恋のお相手に「今日も好きです!」って毎日言う回にグッときました。なんてかわいらしいの。言われたすぎる。

 

 

 

 

萌木の山の眠り姫

朝起きることがままならず度重なる寝坊で大学中退の危機に陥っていた梨木朝子は、授業中に寝息を立てていた有村夕美に親近感を抱いたのをきっかけに、自分とは正反対の美少女で補習合宿中のルームメイトでもある彼女と仲良くなる。ある日寮周辺を散策していると、前を歩いていた彼女が突然どさりと地面に倒れてしまい――。

温湿布のように、じんわりあたたかくなるおはなし。

 

マラソン選手がゴールするなり倒れ込んでしまうように、もうこれ以上努力し続けることはとうてい無理だと思った。

(P51/L16~18より抜粋)

 

朝子の気持ちわかるなぁ。私も集中とか努力は一度切れたらそれきりになるタイプだし、嫌なことがあると寝てしまおうって横になっちゃう。だけどその反面、それを情けないとか怠けてるとも思ってしまう。ちゃんと医学的?に根拠があることだったんだね。

 

「大人になった今のあなたが、当時のあなたを許してやらなきゃならないんです。もしかしたら、今のあなたのストレスの根っこも、そのあたりにあるのかもしれませんよ」

(P84/L6~8より抜粋)

 

こんな、こんな優しい言葉、泣いてしまう…。私は、私のこと、まだ許すことできない。人生色々つまづきすぎたから。だけどこの言葉を自分にかけてやれるときが、いつか、いつかはきっとくると思う。だからそのときまで大切に胸にしまっておこう。

 

だってすごーく楽しかったり、突然、さっきみたいなすごーく哀しい気持ちになったり、ほんと、揺れまくり。でもね。心が揺れるって、ブランコみたいに楽しいし、気持ちいいし、嬉しいね。だってそれって、生きてるってことじゃない?

(P76/L9~11より抜粋)

 

夕美が言ったこの言葉もすごく印象的でした。自分も感情の波がすごく激しいから自分が嫌になること多いんだけど、そうか、それって生きてるってことなんだな。以前こんな自分を「人間らしくていいと思う」と言ってくれた人のことを思いだしました。

 

この人間らしさは自分のためだけじゃなく、誰かのために怒ったり誰かのために泣いたりすることができる。それは子供っぽくて恥ずかしいことだと思っていたけど、悪いことじゃないのかもしれない。スマートにさりげなく、慎重に。私も朝子のような“王子様”になれるといいな。

 

 

 

永遠のピエタ

徹夜で二次創作やドリーム小説を書くことに明け暮れていたオタクの金剛真実は大学卒業がかかった補習合宿でも、朝子と夕美を題材に、毎夜食堂に忍びこみ大学のパソコンでひそかに百合小説をしたためていた。ところが偶然にもその光景を理事長に見つかってしまう。翌朝、なにもかもが嫌になったストレスからか真実は頭痛を訴えるが――。

職場の男性社員で腐の妄想をしている女性なら見たことあるけど学友で百合妄想をする女の子は新しかった。それにしてもどの作品で見てもオタクはパワフルで元気が出るなぁ。オタクのこういうところ大好き。自分のオタク属性が人に元気を与えるほど立派なものかは自信ないけど。

 

人はどうして、ないものねだりばかりするんだろう? 少し、腹が立ってきた。

(P128/L4より引用)

 

架空の物語をこさえることは容易でも、本物の人間のこととなると、なにを考えているのかさっぱりわからない。人のことはあることないこと考えられるのに、自分のことは考えられないし、あまり考えたくない。人間って不思議。だけど、自分の想像にも及ばない、思いどおりにならないからこそ、誰かのことがちょっとわかったときの感動ってひとしおなんだよね。

 

真実が「素敵」と言っていた〈永遠〉という言葉が最後に出てきたとき、「永遠に続くなよ!」と笑みがこぼれた反面、ああ、彼女はささやかな居場所を見出したんだな、となぜか理事長目線もしくは親目線になってしみじみとしてしまいました。

 

 

 

鏡のジェミニ

補習合宿で小山千帆が同室になったのは、食事をほとんど摂らず、痛ましいほどにやせ細った細井茉莉子。いっぱいご飯を食べてもらいたい。茉莉子の身を案じた千帆は理事長に相談し、彼の提案で、彼女と二人きりで食事を摂ることに。それでもなかなか箸の進まない茉莉子。しびれを切らした千帆はある日、つい「うちの子だったら良かったのにね」と言ってしまい――。

自分がおかしいなんて、思いたくないのだ。誰だって、みんな。

(P169/L2より引用)

 

視点が千帆から茉莉子へと切り替わった瞬間、幸福にふくふくと育てられた千帆と不幸にも痩せ細っていく茉莉子2人が置かれた世界がぐるりと明暗を反転させる、そのスイッチングが鮮やかで衝撃的でした。

 

しかし、どちらもどちらか一方から見た主観でしかないことに象徴されるように、どちらがより幸福でどちらがより不幸なのかを他人である読者が決めることはできないし、それならいっそ、どちらも2人で手をとりあってわけあってしまえばいい。幸福と不幸は足してプラマイゼロの普通になるけれど、普通を積み重ねていくことは、いずれプラスになる。

 

おたがいの陰を見ながら、自分の陰でそれを補っていく――千帆と茉莉子の関係は友情と呼ぶには少し不思議な心地もするけれど、素敵な関係だとも思います。人と人とが関わりあうというのは、本来、こういう姿をいうのではないかな

 

めちゃくちゃどうでもいい話だけれど、以前どこかのゲームで「ジェミニ」という名前を見てだな…鏡あわせの双子のキャラだったのでこのタイトルを見たときにふと思いだしたわけだけど、調べてみたら「ジェミニ」って一般的にふたご座のことを指すそうですよ。双子。なるほどね。

 

 

 

プリマドンナの休日

他のどの生徒とも異なり、健康的で溌剌としていて、落ちついていてリーダー性もある喜多川菜々子。なぜ彼女のような人がこんなところにいるのだろう。フリーライターを目指す矢島夏鈴は〈取材〉と称して守りの堅い彼女から補習合宿へ至った経緯を聞きだそうと画策する。やがて夏鈴が感じはじめた“引っかかり”の正体は――。

最後に明かされたある小さな事実と夏鈴の推測にぞっとした。うおおなんだこのゾゾゾ感。本編にはまったく関係ないはずなのになぜだか某有名なサイコパス診断を思いだしてしまいました。え、菜々子はサイコパスじゃないから大…大丈夫、大丈夫だよ、うん、たぶん!

 

「永遠のピエタ」の主人公・真実がふたたび(しかも長めに)登場したのは「お」と思ったけど、菜々子も然り、他の女の子のことは印象に残るもののどうにも肝心の主人公・夏鈴のキャラクターが彼女のさばさばした性格もあって印象に残りづらいんだよなぁ。

 

理事長が真実に言った言葉を借りると「どうしてあなたの物語で、あなたは主人公じゃないんですか?」。連作短編集の中の1話という事情を考えるとこれ以上掘りさげることは難しいのかもしれないけれど、もうちょっと夏鈴自身の話が聞きたかったなぁ。せっかく両親もいいキャラしてるのに。

 

ただ、物語としてはインパクトもあったし他と明らかに毛色が違って、個性の光るおもしろいおはなしでした。

 

 

 

ワンダフル・フラワーズ

食事を摂ることも、着替えることも、入浴することも、誰かに強要されるまでやろうともしない、生きることを完全に投げだしてしまっている“死にたがり”の清水玲奈。季節はめぐり、8月、体育の授業にいそしむ生徒たちを感慨深げに見守っていた理事長が涙を流しているのを見た玲奈は、他の生徒たちとともに、彼が「思いだしていた」というある遠い日の話を聞くことに――。

まさか玲奈が主人公と見せかけて真の主人公が、角田理事長、あなただったとは…。理事長の慈愛と機知に富んだ言葉には心が揉みほぐされっぱなし。マッサージ師かよ。指圧師かよ。

 

冒頭のワンシーンの使いかたも巧妙で、夏のむせかえるほどの寂しさをはらんだノルタルジーと開放的で溌剌としたエネルギッシュな側面をどちらもふんだんに盛りこんだ構成にはあっぱれ。これが加納朋子作品なのか。くっ、大学時代から追いかけていればよかった…!

 

いよいよ迎えた卒業式、 マッサージ師または指圧師 理事長の言葉にはもう涙が出っぱなしでした。表紙のイラストが象徴するような、控えめでありつつも華々しい、最高のクライマックスだった。過去の私がこの本を手にとり、今の私が読んだこと、未来の私はきっと後悔しない。「ありがとう」ってきっと喜んでくれる。『カーテンコール!』大好きだ!

 

 

 

成人式で配って布教しよう

本を閉じて改めて表紙を見てみると、なるほど、そこには9本のひまわり。その姿や配置から、ああ、これはあの子かな、と推測できるものもあって、となると百合やバラなど他の花にも意味が…?と考察するのもおもしろかったです。筆がのれば考察記事を書くかも。ひまわりの配置どおりに9人のイメージ画をならべるのもいいな。

 

ハタチの、あるいはあらゆる人生の節目を越えた大人に、ぜひ読んでほしい1冊。贈りものとかにもいいかもしれない。あ、成人式会場で配るとかどう?

 

とにかく布教せねば。角田理事長を世に布教せねばなるまい。そんな使命感が芽生える良著でした。

 

追記

記事内で言っていた『カーテンコール!』の表紙考察記事ができました。ひまわりは誰をあらわしているのかだけでなく百合やバラなど添えられた花の意味ブーケの形などについても言及しています。小説が読み終わったらこちらもいかがでしょうか?

 

 

 

2018年6月6日に加筆修正しました。

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
読んだ小説の感想や考察を書いています。好きが高じて元小説家志望なので、一篇の物語のように心躍る記事が書ければ。ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれます。小説の他に哲学、美術、神話などの学術本も好きです。