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本屋さんにいるとなぜかトイレに行きたくなる。
みなさんにはそのような経験があるでしょうか?

 

私は「なぜか」はわかっていて、
単純にテンションが上がってワクワクしているからなのですが(笑)

 

ウチの母は百発百中、
本屋さんへ行くと必ずまっさきにトイレにむかうんですよね。

 

しかもこの現象。
正式名称まであるのご存知ですか?
その名も「青木まりこ現象」といいます。

 

文芸雑誌の読者投稿で話題になったのがはじまりで、
“青木まりこ”は投稿者の名前から取ったんだとか。

 

私の身近では母しか知らないのですが、
本屋さんでトイレに行きたくなる人って、
案外いるんでしょうかね?みなさんのまわりはどうでしょう?

 

そんなわけで今回は本屋さんのおはなし。
柚木麻子氏『本屋さんのダイアナ』読了です。

 

 

 

わたしとは正反対、住む世界も違う、でも大切な友達。


 

 

私の名は、大穴(ダイアナ)。

 

おかしな名前も、
キャバクラ勤めの母が染めた金髪も、
はしばみ色の瞳も大嫌い。
けれど、小学三年生で出会った彩子がそのすべてを褒めてくれた――。

 

正反対の二人だったが、
共通点は本が大好きなこと。

 

地元の公立と名門私立、
中学で離れても心はひとつと信じていたのに、思いがけない別れ道が……。

 

少女から大人に変わる十余年を描く、
最強のガール・ミーツ・ガール小説。

 

※あらすじは新潮社HPより引用しました(一部編集)
http://www.shinchosha.co.jp/book/120242/

 

 

 

単行本の頃から気になっていた作品なのですが、
初見の作家だし少女小説だしとなかなか手が出せないまま文庫化。
そのあいだに『王妃の帰還』と出会いすっかり柚木氏の作風に惚れ、
こっちもきっと…!!と文庫化を機にチャレンジしてみた次第です。

 

余談ですが、
じつはこの作品を知ったきっかけというのが
あるハロプロのまとめサイトだったんですよ。

 

なんでも柚木氏はハロプロ好きの作家で、
この作品の主人公2人は元・モーニング娘。の
鞘師里保さんと現・リーダーの譜久村聖さんを
オマージュしたらしい、とか、していないとか。
(御本人が公言したわけではないようなのですが)

 

※こちらのURLを参考にしました。
http://helloprocanvas.ldblog.jp/archives/39504715.html

 

実際読んでみると、
たしかに彩子の中身はふくちゃんそのものでした。
ダイアナの自立心の塊もりほりほに通じるものが。
ハロプロ好きはそういう意味では2倍楽しめるおはなしですね。

 

文体は非常に読みやすかったです。
旅先で読みましたが1日であっというまに読了したほど。
ただ私は出先にも関わらず何度か泣かされて困りました(笑)

 

登場人物は後半からやや増えますが、
個性が書きわけられていますので戸惑うこともなかったです。
ダイアナのお母さんや武田君は読むにつれて印象も変わって。
そういった主人公以外の人物も成長していくのも魅力的です。

 

構成は、
ダイアナと彩子の人生配分のバランスがとてもよかった。
常にどちらかが輝いて見えてそれを羨んだり衝突したり。
形は違えど2人とも苦楽を味わって歳を重ねていく姿は好印象。

 

 

 

“ないものねだり”の少女たち


 

 

子供の頃、
「○○ちゃんチの子供になりたかった!」
なんて思ったりしたことありませんか?

 

だけど結局お母さんのごはんが美味しいから
このままでもいいやって明日には忘れている。

 

このおはなしって、
まさにあの頃の気持ちが詰まってるようで。

 

ダイアナと彩子は、
出会ったその日からずっとおたがいに惹かれ、
そして縛られ続けているように見えるんです。
それは良いことでもあり…悪いことでもあり。

 

たとえば、
彩子がはじめてダイアナの家に訪れたとき
彼女が延々と「ダンシン☆ステファニー」で
遊んでいてダイアナがつまらなそうにしているシーン。

 

ダイアナが彩子の両親や暮らしぶりを羨んでいるのと同じように、
彩子は彩子でダイアナの母や暮らしに憧れを抱いているんですよ。
だけどそれはダイアナ本人にはなんだかピンときていないんです。

 

おたがいがおたがいの“良いところ”だけを羨望していて、
自分があたりまえのように甘受しているものが見えていない。
子供の頃に私たちがしていた“ないものねだり”なんですよ。

 

だけどやがて歳を重ねるごとに、
人生の酸いも甘いも経験して、ようやく、ありのままの自分を受け入れる。

 

名前、家庭環境、進学、友人、就職。

 

一見ティーン向けの少女小説に見えますが、
人生の様々なコンプレックスやターニングポイントでの
人と人の心模様はぜひ男性にも読んでみてほしいですね。

 

 

 

私たちはどこで道を間違えるのか


 

 

私は、
人生の選択肢を間違えたなぁと思うことが3つあります。

 

ひとつは進学した高校。
もうひとつは大学生活。
あとは過去の恋愛です。

 

人生で1番楽しかったのは中学時代で、
過去に戻れるのならきっとあの時期に戻るでしょう。
高校、大学、恋愛もなにもかもやりなおせるあの時期に。

 

だけどこうも思うのです。
あれは全部本当に“間違い”だったのか、と。

 

高校では友達がほとんどおらず、
読書ばかりしていて浮いていて冷やかされることもありました。
寂しい想いはしましたが膨大な量の本を毎日延々と読めました。

 

大学生のときには不安定な精神状態に悩まされ、
今思えば中途半端な大学生活を送ってしまいましたが、
あの頃の授業やレポート課題が文章構成の基礎を形成して
今こうして読書ブログを楽しみとして続けてこれています。

 

苦い恋愛も経験して、
傷ついたりもしましたが、
同じだけ傷つけたりして人の痛みを知りました。
昔ほど怒らなくなり、今はよく、変わったねと言われます。

 

今『本屋さんのダイアナ』を読み終えてこんなふうに思うんです。

 

人が道を間違えたと思うのはきっと、
自分で「ああ、間違えたな」とあきらめたときなのでしょう。
それまでは正解でも不正解でもない無垢なものなのでしょう。

 

一度は人生の汚点になったとしても、
長い年月の中でありのまま受け入れられるようになったとき、
もしかしたらそれは経験という一生の宝物になるのかもしれませんね。

 

ダイアナや彩子。
彼女たちの人生もまた、
経験という宝物で満たされたとっておきの宝箱になりますように。

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。