flower dark photo

 

 

 

今年の春頃から、
母の提案で自宅のベランダで家庭菜園をはじめました。

 

子供の頃は
花や植物にまったく興味がなかったので、
きっとすぐに飽きて枯らすんだろうな…と最初は思っていたのですが。

意外にも毎日世話を欠かさず、
なんと野菜は実をつけ無事に収穫の日を迎えました。自分すごい。

 

初めて自分で育てたブロッコリーは
味が濃く、つぼみが大きく、美味しかったです。
普段食べることのない茎や葉まで茹でてモリモリ食べました。

 

花や植物を育てる人は孤独なのかもしれない。

 

彼らの成長過程の中に、
土に水をやった自分の成果や存在価値を見出すのかもしれない。

 

ジョナサン・オージェ『夜の庭師』に登場する〈彼〉を、
私はもう「怖い」「おそろしい」と思うことができない。
彼の中にあったかもしれない孤独を、今なら、推し量ることができるから。

 

 

 

ディズニー映画化決定の胸熱な姉弟小説!


 

モリーは14歳、
思いのままに物語を紡ぐ天性の語り手だ。

 

弟のキップとふたり、
アイルランドから海を渡って命からがらイングランドに辿り着き、
ようやく雇ってくれる屋敷をみつけたものの、
そこで彼らを待っていたのは巨木に取り込まれたかのような奇怪な屋敷と、
青白い顔をした主人一家、
そして夜中に屋敷を歩き回る不気味な男の影……夜の庭師だった。

 

カナダ図書館協会児童図書賞受賞。
ディズニー映画化の傑作ゴーストストーリー。

 

※あらすじは東京創元社HPより引用しました。
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488539023

 

***

 

1ブロックとしては短く区切られているものの、物語全体はやや長く、
おまけに第3部まではじわじわと展開していくため、
エンジンがかかるまでなかなかページが進まないのが難点。

 

ただし一度エンジンがかかれば
あとは終局までドキドキワクワクの連続で
あっというまなので投げださずに読んでほしいところ。

 

むしろそこまでは
主人公であるモリーとキップの姉弟を堪能してほしいの、ぜひ。

 

 

 

「レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語」という
最高にキュートで勇敢な3姉弟の映画があるのだが(原作も読みたいな)、
個人的に『夜の庭師』には似たような雰囲気を感じて、たまらなかった。

 

弟想いの姉と、
姉が思う以上に姉を慕い成長している弟。

 

以前どこかでも書いたとおり、
兄弟は「家族」というより「相棒」に近いと思う。
表立って多くは語らないけれど間接的に想いを感じる場面がたしかにある。

 

モリーとキップの間にある信頼関係からは
この対等な「相棒」感が強く感じられて胸が熱くなります。

 

 

 

殊に弟・キップがとにかく格好いい。

 

モリーはうなづき、長々と息を吐いた。

「けど、あんたがあたしよか賢かったよ。
ここに来てすぐに、なんかおかしいって気づいたんだもんね」

「賢いかどうかなんて関係ないよ」

キップはごくりと唾を呑みこんだ。

「いまでも怖いし」

そういってモリーの顔を見つめる。

(P222/L14~17より引用)

 

愛用の松葉杖〈勇気〉の名前に恥じない
まさしく勇気の塊のような少年なのですが、
大人びているとか達観しているというのではなく、
そこに子供ながらの身勝手や危うさも垣間見えて。
あくまで子供らしい等身大の勇気である、というところが大変好ましい。

 

ディズニー映画化が決定しているそうです。
彼のキャラクターはまさにディズニーが得意とする分野だろうから映像化も楽しみ。

 

 

 

勇気は変幻自在


 

では『夜の庭師』は
キップこそ主人公でありヒーローなのかというと、半分正解、半分不正解。

 

姉モリーはもちろん、
第3部からはバートランドをはじめ
巨木に囚われたウィンザー家の面々もまた、
心震える勇気を見せつけてくれる。

 

 

 

さて今一度ここで問いたい。

 

勇気とはなんだろう。

 

キップやあるいはモリーのように
絶体絶命のピンチやおそろしい巨悪に立ちむかうことだろうか。

 

未来永劫語られるような偉業をなしとげた
特別な者だけが持ちうるものなのだろうか。

 

そんなに特別なもの、なのだろうか。

 

 

 

心揺さぶられるシーンをふりかえってみると、
勇気には大小さまざまな形があるのだということを実感する。

 

隠しつづけてきた嘘を告白し、
正直に過ちを認めたモリーのそれも勇気。

 

夫を愛し家を守りつづけるコンスタンスのそれも一つの勇気。

 

姉弟を家に置いてやってほしいと
自分の望みを正直に母親に伝える
ペニーの行動も子供にとっては少し勇気のいるものだ。

 

嫌いだった相手を見つめなおし、
受け入れることだってアリステアの人生においては勇気ある決断だった。

 

私たちは「勇気」をしばしば大げさに捉えている。

 

本当はあらゆる人々の心や行動に勇気は存在し、
もちろん自分だってその例外ではないはずなのだ。

 

そういうふうに思えることもまた勇気のいることであるし、
本書はその勇気を呼び起こそうとする背中をそっと押してくれる。

 

 

 

あなたの松葉杖


 

あなたはどんなシーンが印象に残るだろう。

 

心揺さぶられたそのシーンの中に、
今あなたが求めている勇気の姿があるかもしれない。

 

正味400ページほどのやや長い物語ですが、
どうぞ勇気をだして手にとってみてください。

 

あなたにとっての、
生涯自分を支えてくれるかけがえのない
〈勇気〉という名の松葉杖がきっと見つかるはず。

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。