ivy mansion photo

 

 

 

中学生のとき級友の家へ遊びに行ったら、
自宅内にエレベーターがあって驚いたことがあります。

 

大きくて立派な邸宅ではあったものの、
自分の家と同じく2階建てだったので
階段で登れるのにエレベーターで…!?とも思いましたが、
冷静に考えると介護用かなにかだったのかもしれませんね。

 

別の級友は3階建ての家に住んでいました。
許可をもらって用もなく3階まで行くの楽しかったな。
正直今でも3階建ての家とかテンションが上がります。

 

建物といえば、
昔から〈踊り場〉という空間が好きです。
残念ながら自宅の階段にはないのですが、
祖父が以前住んでいた家にあってあれがとてもよかった。
行くたびあそこで立ちどまったり上から眺めたりしたな。

 

というわけで、
今回は家(屋敷)のおはなし。
シャーリイ・ジャクスン氏『ずっとお城で暮らしてる』読了です。

 

 

 

美しき箱庭世界の光と影


 

 

あたしはメアリ・キャサリン・ブラックウッド。

 

ほかの家族が殺されたこの屋敷で、
姉のコニーと暮らしている……。

 

悪意に満ちた外界に背を向け、
空想が彩る閉じた世界で過ごす幸せな日々。

 

しかし従兄チャールズの来訪が、
美しく病んだ世界に大きな変化をもたらそうとしていた。

 

“魔女”と呼ばれた女流作家が、
超自然的要素を排し、
少女の視線から人間心理に潜む邪悪を描いた傑作。

 

※あらすじは東京創元社HPより引用しました。
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488583026

 

 

 

きっかけはTwitterでした。

 

あるとき無性に「友達が欲しい(迫真)」ってなって
読書関係のツイートをしている人を探していたら、
好きな作品としてこれを挙げている方がいました。

 

行きつけの書店で探したものの
見つけることができずにしばらく月日が経ち。
都内の書店で一度平積みを見かけたのですが、
「また今度」とスルーをしてしまう痛恨のミス。

 

その言葉もむなしく、
なかなか次の機会が見つからないでいたのですが
このあいだ別の書店で偶然平積みされていたので
今度こそはと無事購入することができた1冊です。

 

ちなみに友達は一切できなかった。泣いてないです

 

 

 

対称的といいますか、
まるで1輪の花を昼と夜、あるいは、光と影の中で
見ているようなコントラストのあるおはなしでした。

 

単純に屋敷の表と裏の明暗だったり、
一族を死へ葬った砂糖の中に入った砒素。
幻想的な少女たちの生活と小さな村のシビアな社会。
純真ともいえるし冷酷ともいえるメリキャット(※)。

 

※メリキャットは主人公の愛称。

 

たとえば、
私は西洋絵画が好きでたまに美術館へ行くのですが、
美しいものって長時間見つめているほど不安になるんですよね。
以前「割れた水瓶」という絵画を眺めていたときゾッとしました。

 

姉妹の幻想的でかわいらしい生活は
光と自然にあふれとても美しく見えるのですが、その反面、
閉鎖的でひどく鬱々としていて狂気や病的なものを感じる。

 

解説で桜庭一樹氏は「恐怖小説」と書いていましたが、
個人的には恐怖というよりも不安感を強く感じましたね。

 

 

 

色褪せることのない悪意


 

 

調べてみたら1962年の作品だそうなのですが。

 

50年以上経っているのに、いやぁ、まったく色褪せないですね。
人間の!悪意というものは!まったくね!!(´^ω^`)

 

開始20ページ目ぐらいで即人間辞めたくなりました。

 

過去の事実だけで人を見る。
人の不幸を勝手に蜜の味にする。
束になったときだけ威勢よく叩く。
自身の幸福をさも正解かのように他人にも押しつける。

 

自らの悪意によって自らを恐怖へ追いやった
村人たちの自業自得っぷりは皮肉で滑稽で浅ましくって。

 

「あの人たちを憎んではいけないわ」
コンスタンスは言う。
「そんなことをしたら、あなたが弱くなってしまうだけよ」

 

彼女の言葉はきっと正論だ。
わかっている、もちろん、わかっているけれど…。

 

メリキャットが周囲にまきちらしている嫌悪と
チャールズや村人たちが彼女にむける嫌悪には、
はたしてどんな違いがあるというのでしょうか。

 

 

 

永遠の少女に永遠の幸福を


 

 

他の読者の感想を見てみると、解説の桜庭氏しかり、
主人公・メリキャットについてはみなさんおおむね
「変わっている」「恐ろしい」「狂っている」などなど…。
サイコパスとか狂人のように感じたようなのですが。

 

私は彼女についてはちょっと違う印象でした。
一人称なので語られない部分が多いのですが、
愛情に飢えた気の毒な子だったのではないかと思うんです。

 

一緒に住んでいるにも関わらず
伯父には名前を呼んですらもらえない(終盤理由は明かされます)。
屋敷を訪れる人々もコンスタンスばかりを気にかけているようで。

 

事件周辺の彼女の状況を考えると、
生前の一族からもあまりよくは思われていなかったかもしれない。
P164~165のくだりとかはその反動なんじゃないかと思いました。

 

18歳という年齢のわりに
奔放で稚拙で夢見がちで言葉どおりの「純真」なのは、
彼女の心が少女のまま止まっているからで、それは、
大人になることへの強い拒絶のようにも見えました。
子供は本来、無条件に愛を注がれる存在だから――。

 

感情に従い本能的に生きているメリキャットは
好みが分かれるところでしょうが個人的には結構好きです。

 

これから先、
彼女にはずっと幸せであってほしい。
彼女がどんな形の幸せを望んだとしても、だ。

 

彼女がこれ以上なにもいらないというのなら、
美しくもいびつなこの結末を、ハッピーエンドとして、喜んで受け取りますよ。

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。