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みなさんには行きつけの書店ってありますか?

 

私の地元は辺鄙なところで、
近所に書店はたった1軒しかありません。
駅前のスーパーの中にある専門店じゃないやつ。

 

東京創元社の品揃えが
スズメの涙なので最近はまるで行っていないのですが、
高校・大学時代は毎週のようにここに通っていました。

 

金曜日にレジをしていた店員さんが
変声期前の中学生のような声の高い男性で、
対応がとっても丁寧で物腰やわらかな人で。

 

恋愛感情ではなかったと思うのですが、
金曜日にここで本を買うとなんかうれしかったです。

 

今も書籍コーナーで働いているようで、
たまに意味もなくふらっと立ちよると遭遇します。
そしてやっぱりなんかうれしくなってそそくさと帰ります。

 

本とは別のところで自分に根ざしている、
書店とのそういうつきあいかたがあっていい…ですよね?

 

そんなわけで、
今回は本屋さんのおはなし。
名取佐和子氏『金曜日の本屋さん』読了です。

 

 

 

〈金曜堂〉へようこそーっ!


 

 

ある日、
「北関東の小さな駅の中にある本屋は
“読みたい本が見つかる本屋”らしい」
というネット上の噂を目にした大学生の倉井史弥。

 

病床の父に以前借りた本を返すように言われたが、
じつは失くしてしまっていた。

 

藁にもすがる思いで、
噂の駅ナカ書店〈金曜堂〉を訪ねる彼を出迎えたのは、
底抜けに明るい笑顔の女店長・南槇乃。
倉井は南に一目惚れして――。

 

人と本との運命的な出会いを描く
ハートウォーミングストーリー、開店!

 

※あらすじは角川春樹事務所HPから引用しました。
http://www.kadokawaharuki.co.jp/book/detail/detail.php?no=5383

 

 

 

書店で本を物色しているときに、
「これはどう?」と人に選んでもらった1冊。
実際読んでみたら電車の中で泣きそうになりました。

 

個人的には主人公の倉井君が
繊細というか女々しすぎるのも気にはなりましたが、
まぁ女性作家が書く男主人公あるあるということで。

 

それよりも、
本の引用シーンが不自然ですごく引っかかりました。

 

百歩譲って、
書店員の南さんたちが突然その場で小説の一節を
スラスラ諳んじてみせるのは、まぁ、いいでしょう。

 

だけどちょっと前まで
「小説も漫画も読む資格が~」とか言っていた
倉井君が2話では突然5行ぐらいある文章を
暗唱しだしたのには思わず「ええ…」と声が出ました。

 

私もグッときた文章なんかは
付箋をしたりドッグイヤーはするんですが、
諳んじてみせることはさすがにできないので。
私ができないだけでこれって普通なんだろうか…。

 

細かいところが気になってしまいましたが、
文章やおはなし自体は読みやすくておもしろかったです。

 

以下、
各話の感想をまとめました。

 

 

 

あなたに必要な本はここにあるかもしれない


 

 

第1話 読みたい本なんか見つからない:

 

「読みたいから返してくれ」
かつて父の本棚から勝手に持ちだした1冊の本。
ところが父は返しても返しても「これじゃない」と言う――。

 

やっぱりなんだかんだ一番印象に残った話。

 

唐突な質問ですが、
みなさんは誰かに本を贈ったことってありますか?

 

私は誕生日プレゼントとして贈ったことがありますが、
そのとき贈った本は単純に「おもしろそうだから」と
エンターテイメントとして選んでいたんだと思います。

 

だけど倉井君のお父さんの真意を知って、
今度は別の意味で――もっと深い想いで、
大切な人に本を贈りたいって思いました。

 

ちょうど、
これからクリスマスシーズンですね。
今このタイミングで読めてよかった。
今年のクリスマスは誰かに本を贈ろうかな。

 

 

 

第2話 マーロウにはまだ早すぎる:

 

「あれほどの男性が、
なんで私にそこまでこだわるのかが、わからないわ」
絶対に何かある。事件の匂いがする。
女をこじらせすぎた女性と彼女へ求婚を急ぐ男性の真実。

 

大今良時氏の漫画『聲の形』を思いだしました。

 

少し前に〈感動ポルノ〉という言葉が出まわりましたが、
弱さ・強さってそんなに特殊で高尚なものなのでしょうか。

 

人によって苦しみの形が違うように、
弱さ・強さにも個人差がきっとあって。

 

それは、
男だから、女だから、
健常者だから、障害者だからという差でなく。
そこにあるのはいつだって「自分」と「他者」で、「人」と「人」で。

 

自分の境遇をも個性として受けとめ、
日常へ溶かしていった猪之原さんのそれはたしかに魅力的な強さだ。

 

だけど、
愚直に人を信じて、
損も傷も悲しみもすべて請け負って、
そうして最後には赦したいと「無謀な理想論」を
素直な気持ちで口にできる倉井君のそれもまた、たしかな強さだ。

 

 

 

第3話 僕のモモ、君のモモ

 

有名子役の津森渚。
金曜堂の名物店員・栖川。
友達がいない2人の少年と『モモ』をめぐるおはなし。

 

寺田心君が頭にチラつきます(笑)。

 

子役やアイドルなんかを見ていると、
子供のうちから社会に出て働くっていうことにメリットを感じなくて。
本人の意思や夢もあるだろうし一概に否定するつもりはないのですが。

 

自己を確立していく多感で大事な時期に他者を演じるって、
それこそ渚のように〈空っぽ〉になってしまいそうな気がして。
だからこそプライベートの時間が大切なのに渚はあの環境だし。

 

友達ってなんで大事かっていうと、
自分を1つの場所に閉じこめておかないための、
たぶんガス抜き装置として必要なものだからで。

 

「友達」というのは装置の名前にすぎなくて、
別に人である必要はないと思うんですよね。

 

それはある人にとっては趣味の合う人で、
ある人にとってはペットかもしれないし、
ある人にとってはゲームかもしれないし、
私にとってはとにかくたくさんの小説でした。

 

人や社会に迎合して
無理やり他者との繋がりをもてというんではなくて、
むしろ人混みや社会に放りだされたあとで息抜きができる、
ガス抜き装置を確保しておきなさいっていうことだと思う。友達って。

 

 

 

第4話 野原町奇譚:

 

〔野原駅の金曜堂は、ヤクザがオーナーだよ〕
大手ゼネコンとの現金授受が噂される内閣官房長官。
彼の政治家人生は野原町の町議会議員からスタートしている。
和久さんがオーナーの、バイト先の、〈金曜堂〉がある町で。

 

河童とか、
こういう話をすると
頭ごなしに「いない」と否定したがる人が必ずいる。

 

そういう人たちが否定する理由は、科学だとか、
もっともらしい毛皮をかぶった偏った情報や意見で、
だけどそれって本当に自分の意見なんでしょうかね。

 

こういう人が、
ヤス君をよく知らないまま「怖い」と言うし、
下世話な週刊誌の記事をそのまま鵜呑みにする。

 

思考実験や哲学関係の本を読んでいると、
人間は考えることをやめたら終わりだなって思うんですけど、
「想像することをやめたら」に改めたほうがいいかもしれない。
自分の視野のむこう側を想像できなくなったら終わりですよ。

 

 

 

運命の出会いがありますように。


 

 

先日リビングで突然、
父に「『星の王子さま』って読んだことある?」と訊かれました。

 

父の視線の先では、
テレビで某芸人が『星の王子さま』を紹介している――。

 

あわてて部屋に引きかえし本棚をあさってみると、
オリジナル版『星の王子さま』が見つかりました。

 

 

 

じつはこの本、
学生時代にどこかの平積みで偶然見かけ、
「名作らしいし読むか」とわりと勢いで買ったまま
何年も放置していて今年の大掃除で処分するつもりでした。

 

当時は古典や海外小説が苦手だった私ですが、
今では青空文庫でも海外小説でもなんでも節操ないので、
読むならこのタイミングかなと決意を新たにしています。

 

千田琢哉氏の
『人生で大切なことは、すべて「書店」で買える。』
という本の中では
〈運命の本〉についてこんなことが書かれています。

 

あなたと本との出逢いは、
どんなに遠回りしたとしても、すべてベストタイミングです。

 

さまざまな読書経験を経て、
海外小説も古典・名作も読めるようになってきた
今このタイミングで『星の王子さま』と再会したこと。

 

私にはこれがまさに、
遠回りからのベストタイミングだと思うのです。

 

 

 

これからの時期、
そろそろ大掃除の計画を練っている方もおられるでしょう。

 

買ったままだった本や、
一度は挫折してしまった本の整理。
処分を検討しているものもあるかもしれません。

 

今年の大掃除、
みなさんにもこのような
運命の本との出会いがありますように。

 

 

2話感想で触れた『聲の形』詳細はこちら:
http://www.shonenmagazine.com/smaga/koenokatachi

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
読んだ小説の感想や考察を書いています。好きが高じて元小説家志望なので、一篇の物語のように心躍る記事が書ければ。ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれます。小説の他に哲学、美術、神話などの学術本も好きです。