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このあいだ、
数年前に読んでいたとあるシリーズの最新刊を
文庫版で見つけたのでなつかしさに胸躍らせつつ
読んだんですけど、なんだか、しっくりこなくて。

 

歳を重ねるごとに
本の趣味もガラリと変わってしまったなぁ、と。
ちょっぴり寂しい気持ちになってしまいました。

 

そういえば最近は
平積みされた新刊ばかり目で追って、
棚差しから本を発掘するなんてこと
めっきりしなくなってしまいました。

 

本の趣味だけでなく、
本の選びかたやつきあいかたまで
変わってしまったのかもしれない。

 

次に書店へ行くときは棚差しもじっくり見てまわろう。

 

というわけで、
今回は本にまつわるおはなし。
名取佐和子さんの『金曜日の本屋さん 夏とサイダー』読了です。

 

 

 

あなたの読みたい本は、僕が、見つける。


 

 

“読みたい本が見つかる”
と評判の駅ナカ書店・金曜堂は、
アルバイトの倉井以外の三人全員が、地元・野原高校出身者。

 

その金曜堂に、
夏休みを前に現役野原高生・東膳紗世が訪ねてきた。

 

「これぞ青春!」という高校生活を送りたい紗世は、
卒業アルバムで見た店長の槇乃をはじめとする
「読書同好会」メンバーのキラキラした姿に憧れ、
会を復活させたくて相談にきたのだという。

 

けれど、
大の本好きなはずの店長の反応が意外にも薄くて……。

 

※あらすじは角川春樹事務所HP「書籍情報」より抜粋しました。
http://www.kadokawaharuki.co.jp/book/detail/detail.php?no=5513

 

 

 

以前読んだ『金曜日の本屋さん』の続編です。

 

前作は本のおはなしが中心でしたが
今作は金曜堂と“ジンさん”の過去を軸に
言葉や想いについても考えさせてくれる三つ巴な構成。

 

前作と同様に連作短編ではあるんですが
個人的には1つの長編小説のように読めました。

 

前作の感想記事でも書いたかもしれませんが、
前作は倉井君の女々しさというか青臭さ?を
胃が受けつけなくて彼に魅力を感じなかったんですが、
今作は金曜堂メンバーの強い結びつきが描かれていて、
彼の疎外感や無力感が垣間見えるのがとてもよかった。

 

たぶん自分が踏みこめる領域の限界とか、
金曜堂において自分はどうあるべきかとか、
露骨に文章には出てこないけど倉井君はわかっていて。

 

ぺしゃんこになっても、
八方塞がりになっても、
自分が今できることを探して、
今周りにいる人達に協力を仰いで、
今の世界で光を見つけようとする。

 P253 L2~4より引用

 

だけど、ひたむきに自分にできることをやろうとする。

 

倉井君が作中語ったある主人公の姿は、
まんま彼自身にも当てはまっているように私には見えるな。

 

 

 

以下、
各話についての細かな感想です。

 

 

 

春から夏へ 僕からあなたへ


 

 

第1話 何番目かの読書会:

 

***

 

金曜堂に、
かつて槙乃たちが立ちあげた「読書同好会」を
復活させたいと1人の女子高生が訪ねてきた。
しかし予想外にOB・OGである彼らの反応は薄い。

 

当時顧問を務めていた音羽教諭にも
顧問を依頼したがなかなか良い返事がもらえないという。

 

「読書同好会」に一体なにがあったのだろうか。

 

***

 

表題作です。
タイトル見た瞬間、
「ああ『六番目の小夜子』だな」ってすぐにピンときました。

 

昔NHK教育テレビでドラマ放映されていましたね。
途切れ途切れにだけど観てたんですよ、なつかしい。
OPの「ホー↑エアホエア!」みたいな声未だに覚えています。

 

「槇乃さんの過去が気になるくせに、
好ましく思える槇乃さん、
自分が見たい槇乃さんだけを見ようとする心は、
同時に生身の槇乃さんを否定していた。
(中略)
だとすれば、これは恋でも何でもなくて、ただの妄想だ」

 P46 L2~5より引用

 

倉井君のこの一文はグサッときました。
誰もが好きなものは好きなところだけ見ていたいんですよね。
最近のSNSなんかを見ていると「都合のいいものだけ」が適切かも。

 

好きになることは直感的な行為ですが、
好きではない部分を自分の中で昇華することは
ある程度の時間と手間と犠牲・妥協を要します。
ここに、恋や愛の真価があるんですよねたぶん。

 

“生きている”こと。
ここに“いる”ということに、
実際の生死は関係ないんだと思いました。

 

 

 

第2話 パンやのクニット:

 

***

 

同じく駅ナカにある
ベーカリー・クニットへ本の配達へ出かけた倉井。

 

ところが知晶夫人が中身を確認してみると、
注文した覚えのない女性向けの雑誌が1冊。
どうやら雑誌は店の主人が注文したらしい。

 

紙面で紹介されたある1冊の絵本から
夫とその元恋人との強い結びつきを悟って
動揺する知晶夫人に倉井はある提案をする。

 

***

 

私はハロプロが好きで、
日常的にまとめサイト等を見たりするんですが、
最近は現在の体制に不満を抱く人も多いようで
批判的な記事を読んでいるうちに興味が薄れてしまいました。

 

人がもっもとらしくネガティブな評を述べていると、
だんだんと自分で情報を集めることを放棄しだして、
ああそうなんだなと感化されていってしまうんです。

 

だけど趣味に大切なことって、
誰かとなにか共有することよりも
まず自分が楽しむことじゃないですか。
自分が集めた情報で自分が楽しむことが大前提なわけで。

 

思いきって、
定期的に読んでいたまとめをすべて遮断して
自主的に欲しい情報だけ集めるようにしたら
ハロプロおもしろいなってまた感じられるようになりました。

 

知晶夫人の一件も同じことなんだと思います。
自分の目で見て感じたことがすべてなんです。

 

服を選んでいる彼女が
彼氏に「どっちがいいと思う?」と訊くのと同じで、
人は自分でしか自分の欲求を満たせないようにできているんでしょうね。

 

 

 

第3話 夏は短し励めよ読書:

 

***

 

「真実を見つけたら、連絡をちょうだい」

 

パープルに染まったボブカットでトンボ眼鏡という
ファンキーな女性客が「読みたい本」のヒントとして
提示したのは、てんてバラバラの本のタイトルたち。

 

真実へのキーワードは、
森見登美彦の『夜は短し歩けよ乙女』?
彼女と〈先輩〉の物語はやがて“ジンさん”へつながっていく――。

 

***

 

限られた情報で、偏った情報だけで、
みんななぜそんなにも無責任に人を批判できるんでしょう。

 

嫌いになることのほうが簡単だし、
嫌いを共有することで生まれる連帯感は
人との結びつきを強くするのかもしれない。

 

実際に好きか嫌いかはどうでもよくて、
どちらかに転がってどちらかの派閥と
手軽につながりたいだけなのかもしれない。

 

責任なんてない。
自分の生活には一切完結のない人だから。

 

マジレス乙。ネタだろ。たかが便所の落書き。

 

どんな言いまわしをしようとそれは勝手だけど、

 

「だからといって
彼が優秀な議員であることがなしにはならないと、私は思います」

P186 L7~8より引用

 

その正義は世界の真理ではないし、
言論の自由は人を傷つけてもいい理由にはけっしてならない。

 

 

 

君への扉:

 

***

 

先日の一件から
店長・槙乃の様子が最近おかしい。

 

新刊には目もくれず、
8年前の思い出の本を再読するばかり。
書店業務にも身が入っていないようだ。
倉井をはじめ金曜堂のメンバーとも距離をとっている。

 

そんな折、
明日発売の週刊誌に
金曜堂の悪口が書かれた記事が載るようだと
縁のある記者からおそろしい電話があり――。

 

***

 

普通キャラクターありきの連作短編というのは
どこから読んでも基本的に差し支えないような
構成になっているものなんだと思うんですけど、
これほど前作を、ひいては、ここまでの3篇を
読んでいることを前提にした話があるでしょうか。

 

これはけっして不満ではなく、
作者の作品に対する愛情への賞賛です。

 

南店長、ヤスさん、栖川さんといった
個性のある〈チートキャラ〉ではなく、
なぜ主人公が倉井君で一人称だったのか。

 

この設定が、
このおはなしでとても大きな意味をもっていました。

 

すなわちこれはバトンのおはなしなのではないかと。

 

母と子の命のバトン。
ジンさんから南店長へのバトン。
そして南店長から倉井君へ受け継がれていく未来へのバトン。

 

僕がどんな状態で、どんな気持ちで、
ここにいるのかなんて考えたこともないだろう。

P226 L13より引用

 

人は想像ができなくなったら終わりなんです。

 

言葉とむきあい行間を想う。
人の気持ちを想像するという訓練ができるのは、
他人の想いと言葉で作られた小説を読むことだけかもしれない。

 

 

 

次回作は読書の秋?


 

 

最終話で倉井君が
これまでのエピソードを春、夏、と区切っていたので、
もしかしたら秋冬の2冊が出て完結予定…でしょうか。

 

秋はなんといっても〈読書の秋〉ですから、
次回作が秋の物語なら期待が高まるところ。

 

個人的には
今回登場した東膳紗世ちゃんか
もしくは大穴狙い(!)で友人のマドカちゃんあたり、
倉井君を好きになって三角関係あるんじゃないかと
勝手に予想しているんですがさてどうなることやら。

 

とりあえず『六番目の小夜子』を買ってこようかな。
ドラマを観ていただけで読んだことなかったんですよ。

 

余談ですが『夜は短し歩けよ乙女』も
近日アニメーション映画化されるそうですね。

 

倉井君の中で重要な意味をもつらしい『夏への扉』も
次回作が出るまでには読んでおきたいな、ああ、積ん読が…!

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。