cat beach photo

レイチェル・ウェルズ『通い猫アルフィーと海辺の町』(西村和美・訳)を読みました。前作『通い猫アルフィーとジョージ』以来約1年ぶりとなるアルフィーとの再会。新刊が出ていたことをじつはまったく知らなくて、たまたま書店で見つけたときうれしさのあまり「おおっ!」と小さく声が出てしまいました。8月の暮れ、夏の終わりに読了が間に合ってよかった。溶けるような暑さの中、行間からそよぐ涼しげな海風が心地よかったです。

 

 

 

愛すべきおバカさん

通い猫として順調な毎日を送るアルフィーに、ある日思わぬ話が舞い込んだ。 通い先の家族みんなで夏のあいだ、海辺の町の別荘に滞在することになったのだ!同行したアルフィーとジョージの2匹も青い海に大喜び。 だが、いわくありげな地元住民はなぜかアルフィーたち一行を町から追い出したいようで……?新しい人間、新しい猫との出会い。今度は〝旅猫〟になって奇跡を巻き起こす!? ハートフル猫物語第4弾。

 

※出典:https://www.harpercollins.co.jp/hc/books/detail.php?product_id=11613

物語の流れとしては2作目『通い猫アルフィーのはつ恋』に似た読み心地を覚えたけれど、本作特有の魅力はなんといっても仔猫のジョージ!このコの存在が最高のスパイスにして決定的な違いでしょう。

 

アルフィーはCapter4(ヒント:砂)やChapter12(ヒント:屋根)など相変わらずヒヤヒヤさせるところもあるけれど、基本的には賢くて勇敢、なんだかんだ〈主人公〉なので、4作目ともなると読者の中で「結局なんとかなるんでしょう?」という油断がどこかしらで生まれてしまうもの。そこをジョージの無垢でおとぼけ――正直に言ってしまえば愛すべきおバカさんな言動の数々がめまぐるしく裏切ってくるのがアルフィーの主人公補正とちょうどいいバランスで、構成の妙。飽きない。たくさん笑わせてもらいました。

 

「でもぼくのことはみんな好きになるよ。(後略)」

(P95/L1より引用)

 

腹立つほどあざとくて好き。

 

 

 

別々に大切にするということ

今作のテーマのひとつは「思い出」だったんじゃないかと私は思っています。

 

大おばが遺してくれた〈海風荘〉とその記憶に対するクレアの想い然り、また、アンドレアの家や娘たちやリンストーという町に対する想い然り。美しい思い出があることはもちろんとても素敵なことです。だけど、時は流れ、人は変わり、いずれ大切な“あのとき”と今が調和しなくなるタイミングが必ず訪れる。どこかで折り合いをつけなければいけなくなる。それは悲しいこと・寂しいことじゃないということを、私たちは、知っていないといけない。

 

「ママが悲しいの嫌い。トビーが悲しいのも嫌い」

(P342/L8~9より引用)

 

最良の結果を得るために我慢をすることは、はたして、最善の選択なのでしょうか。遠い記憶の箱にある大切なものと今このときという箱にある大切なものは、同じようで、明らかに違う。二度と完璧に“あのとき”を再現することなどできない今を私たちはみんな生きている。どちらかを選べということじゃなくて、それぞれを別々に大切にするということ、クレアもアンドレアも、みんな、これから少しずつわかっていってくれるといいな。

 

 

 

2番目に好き!

というわけで、予期せぬアルフィーとの再会でしたが、思っていた以上によかったです。120点。★6。キーパーソンとなるアンドレアと娘のサバンナ・セラフィナ姉妹も“いわくありげな地元住民”として申し分ないキャラクターだったし、P352~353にかけてのトビーの尊み秀吉っぷり、たった一言で私の涙腺をぼろかすに壊したサマー。個人的には1作目『通い猫アルフィーの奇跡』に次ぐおもしろさでした。

 

エドガー・ロードの人々を「家族」に結びつけたアルフィー、そんな賢くて世話焼きでときどきうぬぼれ屋さんな彼の初恋、それをなくしては出会えなかった息子のジョージ――これまでの作品ももちろん過去作とのつながりはきちんとあったけれど、本書ほどすべての作品とその出来事が密接につながっていると感じられる作品はありません。なので、シリーズ通しては本書が2番目に好きだし単体でも読めないことはないと思うけど、未読の方々にはやっぱり1作目から全作読んでここにたどりついてほしい。漫画やイラストもありシリーズ全体のイメージがつかみやすいハーパーコリンズ・ジャパンの特設サイトのリンクを貼っておきます。自然なステマ。

 

通い猫アルフィー│ハーパーコリンズ・ジャパン
https://www.harpercollins.co.jp/alfie/

 

まだまだつづいてほしいなと思っています。タイガーが恋しいし、トビーは今後まだまだたくさん幸せになるべきだし、ギルバートとリリーとかいう新しい萌えを見出してしまったから。誰だそれ。気になってしまったら今すぐ本書をチェック!

 

 

Ranking
Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。