!ネタバレ注意!

当ブログは書評や感想ではなく、考察を前提とした読書ブログです。記事では予告なく作品の重要な部分や結末について触れることがございますので、作品を既読である、またはネタバレを承諾する場合のみ閲覧することを推奨します。

 

 

 

初めましての方は初めまして。
お久しぶりの方は、1年ぶり。

 

いや、1年は草。どんだけブログ放置しとんねん。生きとったんかワレ。

 

ぶっちゃけ2023年から更新ペースは怪しかったんですけど、ずっとなにしてたかというと、小説を書いていました。それで、私は1つのことしかできない性分でして。書くと読むのがおろそかになるのですよ。あまりに本が読めていないので、もうブログ閉鎖しようかな……なんて考えた時期もありました。そんな私が、どうしてここへ帰ってきたのかという話です。お待たせしました本題です。これが本当の『死者を動かすもの』ってなぁ!ガハハ!!

 

というわけで『死者を動かすもの』ですが、シンプルに「美しい文章を食べたな」という気持ち。

 

最近、美しい文章っていつ読んだだろう。おもしろい小説は数をこなせばわりと当たるけれど、美しい文章は数をこなしてもなかなか当たらない。そんな中で、『死者を動かすもの』は本当に美しかった。

 

書店で最初は表紙に惹かれて(装丁もまた美しいんだよなぁ)、次に惹かれたのが冒頭の一文。

 

そのキノコの傘の裏側のひだは、切断された筋肉の濃くて赤い色をしていた。(P7/L1より引用)

 

キノコと出くわしたとき、その裏側に着目してこんなふうに見ることのできる人間が他にいるだろうかってくらい秀逸な書きだしだと思う。あらすじにはポオの「アッシャー家の崩壊」に捧げたゴシックホラーとあって、そっちは読んだことがないのだけど、それでもこの一文で読もうと思ったよね。そして、読んでみると実際におもしろい。ポオ知らなくても全然楽しめた。

 

※追記:本書読了後、青空文庫でポオの「アッシャー家の崩壊」読んだんだけど、正直本家ありきというのはもちろん考慮して、それでも『死者を動かすもの』 のほうが断然おもしろかったよ。未読の人は、私は未読のまま本書へ行っていいと思う。個人の感想です。

 

正直、物語のおもしろさとしてはかなりスロースターターで、おもしろくなってきたー!って思えるのは9章くらいからなんだけど(※全12章)それを補って余りあるくらいにはやっぱり文章がいいんだよね。

 

よいかな、とにかくひとりのときに動物にまぬけなことをしない人間は、当てにならないものだ。これは父の座右の銘のひとつで、わたしは絶対に正しいと思っている。(P19/L8~10)

 

「悪魔が歩くところに、キノコは生えると言いますから」アンガスは不機嫌そうに言った。「それと、妖精がダンスをするところに」(P62/L7~8)

 

思い浮かべることができたのは、キノコの群れが獲物を追いかけ、はね跳びながら荒野を進む様子である。きっと滑稽に違いない。これは滑稽なことなんだと、しっかりと自分に言い聞かせた。(P168/L12~14)

 

タイトルのとおり、物語の主題は“なにが死体を動かしているのか?”に尽きるんだけど、やっぱ究極は自然が一番おそろしいんだなって。これ、「おそろしい」ってのがミソで、なにが「こわい」かで考えたら人間もこわいし幽霊もこわいし自然以外の脅威ってたくさんあるのよ。だけど「おそろしい」ものってなにかって考えたとき、圧倒的な脅威ってやっぱ自然なんだろうなぁって改めて感じさせてくれるホラーだったんだよね。前にゲームさんぽの動画で名越先生が「自分が今どこにいるかわからないと人は不安になる」とおっしゃっていたんだけど、これ自然に放りだされたときが一番感じるもんなんじゃないかなって。そういう意味では主人公のイーストンはまさにそういう状況だったし、だからこそ第10章の展開が熱くて、最後の「二人は行きました。では、話し合いましょうか」って言葉が最高に格好いいんだよなぁ。

 

 

【朗報】ちなみに、人もちゃんとこわいです。

 

真相にいたっては、こわいを通り越してもはや悲しくなってくるんだよな。切ない。相手の気持ちがわからなすぎて。理解できない、はホラーなんだけど、理解したいのに理解できないはむなしさであって、悲しみ、苦しみなんだよな。そういう本質というか根幹まで、もう骨の髄まで味わえちゃう一冊だった。なんだろ、めちゃくちゃ好き~!みたいな熱量では推してないんだけど、ちゃんとしっかり「好き」なんだよね。やっぱ「おもしろい」より「美しい」んだよね。

 

というわけで、総括するととてもよかった。元の文章がいいというのはもちろんあると思うんだけど、でも翻訳した文章がよかったってのもあると思う。翻訳者の方にもお礼を言いたい。永島憲江さん、翻訳してくださって本当にありがとうございます。カバーイラストの河合真維さんもありがとうございます。みんな本当にありがとう。これだから東京創元社は推せる。BIG LOVE . . .

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。