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高校3年生の夏休み、
学校で開かれた受験対策の勉強会かなにかで
小論文の問題プリントをやっていたのですが、
何年も経ってなお強烈に印象に残っています。

 

誰が書いたのかも具体的な内容も忘れましたが、

 

昨今の日本の住宅は外観に統一性がない。
対してヨーロッパあたりには統一性を感じる。
それは彼らが町の景観と歴史ある家を誇りに
思っていて大切に暮らしているからであろう。

 

以上のように書かれていたと記憶しています。

 

※注
何年も前の記憶なので、
原文と異なる点や解釈に誤りもあるかもですが
思い出補正…ということで大目に見てください。

 

私は中学生だか高校生だかの頃からドイツが好きで、
自分でもなんで好きなのかわからなかったのですが、
これを読んだときに心底納得したのを覚えています。

 

今回はそんな日本の住宅のおはなし。
逢上央士氏『建築士・音無薫子の設計ノート』読了です。
(※長さの都合でサブタイトルは省略してしまいました)

 

 

 

去年末に本屋へ行ったとき連れに勧められて読みました。
著者の略歴を見てみるとライトノベル出身だそうですね。
若干心配しながら(失礼)読んだのですが結構良かったです。
良くも悪くも軽い気持ちでサクサク読むことができました。

 

特筆すべき点は文章作法でしょうか。
私が読んでいて気になった点は3点。

 

・「……」「――」が頻繁に使われる。
・「っ!」などセリフに若干の違和感。
・強調したいセリフは必ず改行ではさむ。

 

個人的にはどうしても気になってしまいます。
ラノベだと主流なのでしょうか?慣れない…。

 

以下、各編の感想を書きます。

 

 

 

Note 01 窓のない部屋:

 

父親が遺した〈窓のない部屋〉のおはなし。
部屋の正体と「窓が欲しい」という依頼人。
その対比が寂しくて、でも、あったかくて。

 

家は自分と人とのつながりを
もっとも身近に目で見られる空間だと思うのです。

 

家の問題は家族の問題と直結しているのかもしれませんね。

 

 

 

Note 02 モテない女と捨てられない男:

 

無駄なモノを持ちたくない彼女。
無駄なモノを捨てられない彼氏。
悩めるカップルの問題を一度に解決できる家、とは。

 

タイトルの“モテない”は「持てない」なんですね。

 

設定がおもしろかったので、
解決編をわくわくしながら読んでいたのですが。
建築士というより…収納アドバイザーのような。
前話より建築ミステリー感は感じませんでした。

 

 

 

Note 03 使われなくなった部屋:

 

家の中でもっとも広いのに空室の子供部屋。
この部屋の“今”あるべき姿を探るおはなし。

 

作品の中で一番好きなおはなしです、けども。
あの解決策を「リフォーム」と呼んで良いのだろうか。
伊豆野先生は「リフォーム」プランを考えろって言ってたよね?
まぁ、良いおはなしだったから、気にするのはもうやめよう(笑)

 

家が持つ本来の意味を考えさせられました。
家って〈人生の大きな買いもの〉とか言うじゃないですか。
あの“大きな”というのはもちろん金銭的な意味もあるし、
自分の生涯だけでなくパートナーや子供たちの生涯にさえ
長く深く関わっていくという意味がきっとあるんですよね。

 

 

 

Note 04 建築がつなぐもの:

 

薫子たちに舞いこんだ投資用物件の依頼。
住む人が変わるたびに手が加えられた1軒の住宅。
この建物が持つ価値をもっとも高めるプランとは。

 

このあいだある人からこんな話を聞きました。

 

ご自宅の近所に3軒長屋があるそうなのですが、
左右両隣のお宅が大手不動産によって売却され、
現在真ん中のお宅だけが長屋として残ったそう。

 

土地を売るかどうかの話になったとき、
和菓子屋?のそのお宅は「自分の代までは」と
土地を売るのをそのときは断ったのだそうです。

 

ネタバレ防止のため詳しくは書きませんが、
終盤の薫子さんのセリフにこんな言葉があります。

 

この世に二つとない建築なのよ。

 

これから長く住んでいく自分の家。
自分好みに設計をこだわるのもたしかに素敵なことです。
しかし“この世に2つとない”とはそういう意味でしょうか?

 

部屋や家具だけではなく、
家には大切な〈なにか〉が存在しているということ。
住んでいる私たちが忘れてはいけないのだと思います。

 

 

 

帯には「建築ミステリー」とあるのですが、
全体的に見るとなんだか尻すぼみな印象でした。

 

建築というジャンルへの努力は伝わるのですが、
特に肝心の依頼人の心象描写がとても少なくて
感情移入ができないので全部薄っぺらに見えて。
小説というよりは参考書のようなドライ感です。

 

逆にいえば、
専門的な知識がなくてもサクサク読めます。
良いおはなしではあるので後悔はしませんでした。

 

日本語では「読書家」のように、
人をあらわす言葉に「家」という字が使われます。

 

心の入れものが身体なのだとしたら、
身体の入れものが家(建築)なのでしょうね。

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。