crime photo

 

 

 

今までの人生で一度だけ、
おまわりさんに声をかけられたことがあります。

 

高校1年生のとき、
初秋ぐらいのことだったと思います。
友達と自転車2人乗りで帰っていて。

 

思いっきり交番の前を通過しまして。

 

当然、その場で止められて注意されました。

 

友達は面倒クサそうに対応していたのですが、
正直私は「人生終わった…」と絶望していて。
停学とか退学だったらどうしようと顔面蒼白に。

 

停学にも退学にもなりませんでしたが、
あれから交通ルールをしっかり守っています。

 

時差式信号で青に間に合わなかったときって
損した気分になりますよね。まぁ余談ですが。

 

と、いうわけで今回は「罪」のおはなし。
フェルディナント・フォン・シーラッハ氏『罪悪』読了です。

 

 

 

***

 

ふるさと祭りで突発した、
ブラスバンドの男たちによる集団暴行事件。

 

秘密結社にかぶれる男子寄宿学校生らによる、
“生け贄”の生徒へのいじめが引き起こした悲劇。

 

猟奇殺人をもくろむ男を襲う突然の不運。

 

麻薬密売容疑で逮捕された老人が隠した真犯人。

 

弁護士の「私」は、
さまざまな罪のかたちを静かに語り出す。

 

本屋大賞「翻訳小説部門」第1位の『犯罪』を凌駕する第二短篇集。

 

※あらすじは文庫裏表紙より引用しました。

 

***

 

 

 

前作『犯罪』については去年6月頃に読了してます。

 

テレビで紹介されたそうで(?)
今ちまたでブームだそうですね。
ブーム前に読んだ私は鼻が高いです(*`・ω・´)キリッ

 

あのときは海外小説が苦手で
あまり読まなかったのですが、
シーラッハ氏そして訳者の酒寄進一氏をきっかけに
今では海外小説も抵抗なく読めるようになりました!

 

そんなわけで。
思い入れのある『犯罪』に続く短篇集とのことで
文庫発売直後に急いで本屋で買った『罪悪』です。

 

 

 

全体の感想としては、
前作『犯罪』よりも目に見えて作風が広がったなと。
あ、もちろん前作も多彩なジャンルだったんですけど。

 

たとえば前作は昼間の雨のような、
憂鬱でどんよりした雰囲気がして、
続けて何篇か読むとつられて気分が落ちこむほどでしたが、
今作は気楽に読める笑い話的な短篇があって救われました。

 

個人的にはこれが1番のポイント。
人に勧めるなら断然『罪悪』です。

 

計15篇(!)と大容量の短篇集なので、
全話に感想を書くことはしませんが
特におもしろかった5篇の感想を書こうと思います。

 

各話ページ数が非常に少なく、
また多く語りすぎるとネタバレになりかねないので
内容そのものにはあまり触れることができませんが、
気になるものがあったらぜひ実際に読んでみてください。

 

 

 

解剖学:

 

読んだあとの衝撃が忘れられない。
読後しばらく放心状態でした、本当に。

 

たった3ページ(!)のおはなしですが、
最後の展開はなかなか深かったと思うのです。

 

一見“めでたしめでたし”に見えるのですが、
ある視点でこの結末を見たときに本当にこれ
「めでたしめでたし」って言えるのかなぁ、と。

 

落語とか漫談を聞いてるような気分でした。

 

二面性のある物語が好きな人にはこちらと、
あと「イルミナティ」とかもオススメですよ。

 

 

 

欲求:

 

「普通」の男女が「罪人」になる瞬間。

 

帯にあるこの言葉を直で感じられました。

 

どんな人にも人生があり生活があります。
たとえなにかの罪を犯した人でも、です。

 

“悪い人”というのは生まれたときから
“悪い人”であるわけでは決してなくて、
それぞれ心に沸点のようなものがあって、
なにがきっかけでそこに達するかも違う。

 

どこが沸点なのか自分でもわからない人もいるし、
どこにきっかけがあるか予想できないときもある。

 

誰もがそういうリスクと隣りあわせで生きている。

 

このおはなしと反対に進むのが「遺伝子」でしょうか。
自分で思っている以上に罪は身近だということですね。

 

 

 

子どもたち:

 

海外小説というのは多かれ少なかれ
作者と読者の生活環境の違いを感じ、
物語に馴染めないこともありますが、
個人的にこのおはなしは日本でも身近なように感じました。
(物語の核に触れてしまうので具体的な説明ができません)

 

犯罪は、簡単に人の人生を壊してしまいます。
被害者はもちろん加害者も、第三者でさえも。

 

たとえば男であること。
たとえば女であること。

 

自分がなにかであること。

 

罪の前で、
そういうのは武器でもなければ鎧でもないんです。
誰の時間も“なかったこと”にはできないんです。

 

 

 

清算:

 

創元推理文庫から刊行されているということで、
もちろんミステリーとして楽しめるおはなしも。

 

読んだあとは思わず「んむぅ」と変な声出ました←

 

こういうおはなしがあまりにも自然にしれっと
混ざっているからついつい普通に読んでしまい、
最後「!?」って騙された!ってなるんですよね。

 

「清算」はしかも、
騙された!で終わらなくて読後もモヤモヤします。

 

もちろん悪い意味でのモヤモヤはないんですけど、
よかった、と思う反面、これでいいのか、とも思う。

 

この絶妙なライン描いてくる感じがたまらないです。

 

 

 

家族:

 

杉江松恋氏の解説の中に、

 

ここで感じたのは「理解できない」という壁の存在である。
もしくは登場人物たちから「理解されたくない」と強硬に
拒まれているのを感じる。

 

という文章があるのですが、
これを1番に感じるのがこのおはなしでした。

 

誰がなにを言っても、
おそらく結末は変わらなかったでしょう。
だからこそ最後の最後の一言があまりにも悲しい。

 

私たちはいつもどこかで、
誰かと関わって思いあって影響しあっています。

 

自分の人生に陰を落とすということは、
同時に誰かの人生に陰が落とすことにもなるかもしれない。
自分の人生は自分だけのもの、とは、一概に言えないのかも。

 

 

 

さて、突然ですが4月です。春ですね!

 

今頃ならお花見や新歓迎会等お酒の席も多いです。
みなさんも犯罪やトラブルには注意してくださいね。

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。