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正直、古書は苦手です。

 

Book-offなどの古本もあまり買わないほうで、
図書館などで本を借りることにも消極的です。

 

潔癖症なんでしょうかね、
大学時代にレポートやらで年代モノの本を利用したときも
日焼けした紙やボロボロになった背を見て「うひゃー」と
触るのについためらってしまうことがよくありました(汗)。

 

古書には触れない私ですが、
神保町の古書店街にはときおり遊びに行っています。
まぁ外から眺めるだけになってしまうんですけれど。

 

嫌いなわけではないんです、やっぱり。
古書の魅力もいつかはわかるようになりたいです。

 

さて、今回は古書にまつわるおはなし。
芦辺拓氏『奇譚を売る店』読了しました。

 

 

 

お名前を知ったのは去年。
2015年版の“このミス”で『異次元の館の殺人』を知り、
おもしろそうだな、読みたいな、と思っていたのでした。

 

結局『異次元の館の殺人』は未だ手に入っていないのですが、
Twitterや書店の平積みで『奇譚を売る店』を見かけまして。
図らずもこちらを先に読むことになってしまったというわけ。

 

感想はというと、
結論からいうともう大満足!
まだ1月なのにさっそく年間ベストにランクインしそう。

 

おはなしは題名にあるとおりまさに〈奇譚〉。
帯の「読んだら最後、物語に閉じ込められ食い尽くされる!」に偽りナシ。

 

じつは“古書モノ”としては、
三上延氏『ビブリア古書堂の事件手帖』を3巻まで
読んだことがあるのですがこちらは馴染めずに挫折。

 

今回の“古書モノ”も相容れないのではと思っていましたが、

 

それが、後ろ手に閉めた戸に隔てられたとたん、
夢から覚めたような気分になった。
またやってしまったか、
と幾枚かの紙幣と引き換えにハトロン紙の封筒に収まった
今日の収穫を見やりながらつぶやく。
確かにあのときは、格好の掘り出し物、
小説のネタ本として有望だと思ったのだが……。

 

開始から2ページで早くも、
古書店には行かない私でも「あるある」と共感。
気づいたら買っていたなんてことがあるんですよね。

 

それから、

 

返品のきく新刊書店と違い、
本棚に詰まった本は全て店主の所有物。
客はそこへ勝手に入りこんで自分の持ちものをいじくり回す、
もってのほかな輩という考えも成り立つわけで、
気に入らなければいつでもたたき出せるし、
文句も言い放題ということになるのかもしれない。

 

ここには思わず笑ってしまいました。
神保町の古書店にはじめて入ったとき、
独特の雰囲気の中で私もこんなこと考えてビビッてたなと。

 

古書を扱った連作短編集ではあるけれど、
古書に限らず本好きならニンマリできる小説でした。

 

以下、各編の感想を書いていきます。

 

 

 

『帝都脳病院入院案内』:

 

古本屋で“私”が「買ってしまった」のは、
かつて実在した精神科病院〈帝都脳病院〉の入院案内。
20ページ足らずの冊子に隠された病院の秘密が明される。

 

奇妙でホラーな雰囲気はもちろんありましたが、
作者もあとがきで触れているようにミステリー色が強め。

 

最初は同じ本好きとして笑いながら読めるんですけど、
第2章に入ったとたん一気に「?」とゾッとなる展開。

 

小説を読んだときについ勢いあまって(?)
主人公の絵を描くとかは私も経験ありますが、
さすがに【病院のジオラマをつくる】のには、
愛がこもっているようで狂気じみていて唖然。
※ネタバレのため【 】内を白字表記としております。
※任意でお読みになる場合は【 】内を反転してください。

 

最後には文字どおり「物語に閉じ込められ」るわけですが、
あの段階で彼はもう呑みこまれていたのではないかと思う。

 

 

 

『這い寄る影』:

 

古本屋で“私”が「買ってしまった」のは、
名の売れなかった作家の忘れられた作品群。
彼の名前に見覚えがあるような気がする…。

 

題名どおり、なんとも、気味の悪いおはなし(褒め言葉)。
暗闇の中でこんにゃくをツツーッとされるような雰囲気!

 

私がノンフィクションよりもフィクションが好きなのは、
後者のほうが文脈の裏に作者の思考を見つけやすいから。
物語は匿名性に似ていて強いメッセージを感じられるんです。

 

本はその〈想い〉を文字として残すことができる。
目で捉えることができてなおかつ何度でも読める。
影響されやすい人にとってそれは毒にも薬にもなるでしょう。

 

だから小説を読む想像力のある人は用心しなければいけないのです。
物語、ひいては、作者そのものに呑みこまれることがないように…。

 

 

 

『こちらX探偵局/怪人幽鬼博士の巻』:

 

古本屋で“私”が「買ってしまった」のは、
子供の頃に読んだあのなつかしの漫画月刊誌。
読んだことのない最後のエピソード、その結末とは。

 

唯一、ホラー味が薄めで好きなおはなし(※個人の感想です)。
週刊少年ジャンプ読んでる方は殊に共感できそうな内容です。

 

私は『電脳少女☆Mink』という漫画を思いだしました。
漫画月刊誌『なかよし』で連載されていた少女漫画で、
最終話が掲載されたときのことは今でも覚えています。

 

あるとき突然『Mink』が掲載されなくなったんです。
次回の掲載が予告された号には掲載されていなくて、
どこかに小さく「都合のため掲載できませんでした」
と書かれているだけでいつ再開するのかもわからず。

 

何ヶ月か経ったあと『なかよし』の姉妹版みたいな、
何ヶ月かに1冊刊行される別の『なかよし』が創刊、
なぜかそちらに『Mink』の最終話が載ったんですよね。
子供ながらに首をかしげながら買いに行ったものです。

 

あれは作者や出版社の都合だったのでしょうか。
ともあれ最終話が読めたことには当時安心しました。

 

漫画を連載するというのは大変なお仕事です。
読むのはあっというまで待つことは簡単ですが、
楽しみに待つということも1つの〈応援〉だということ。
読者の人気に関わらず不要な人・ものはないということ。
読むことと同様にあたりまえだけど忘れてはいけません。

 

(漫画とのむきあいかたを小説で考えさせられるとは…)

 

 

 

『青髭城殺人事件 映画化関係綴』:

 

古本屋で“私”が「買ってしまった」のは、
カルト的大作長編『青髭城殺人事件』の映画化に関する資料。
撮影所で出会った18歳の少女は配役表の中にいた〈七條薔子〉
にとてもよく似ている…彼女はもしや不老不死なのだろうか。

 

読んでいるときは、
なんていうか無味乾燥な印象だったんですけど。
今改めて感想をまとめてみるとおもしろかったです。
B級ホラーのような笑える怖さというか(褒め言葉)。

 

個人的に好きなのは【藤戸君の終盤のセリフ】。

それは、不老不死の存在なんてのは何も
絶世の美少女に限っちゃいないということですよ。

※ネタバレのため【 】内を白字表記としております。
※任意でお読みになる場合は【 】内を反転してください。

 

思わず声出して笑いました。
まったくもってそのとおりですね。

 

最初なんでかオチに納得できなかったのですが、
読みなおしてみたら作中にきちんとこのように

 

「私とは長年の付き合いである。まだ若いのに、」
※ネタバレのため【 】内を白字表記としております。
※任意でお読みになる場合は【 】内を反転してください。

 

伏線があったのですね。
あまりに自然に溶けこんでいたので気づかなかったorz

 

 

 

『時の劇場・前後篇』:

 

古本屋で“私”が「買ってしまった」のは、
読んだ記憶のある『時の劇場』という小説。
信じられないことにこれはわが家の物語だ。
ならば〔後篇・主人公の章〕は“私”の物語――?
読まねばならない、なんとしてでも、後篇を――!

 

じつはちょっとまだ頭が追いついていません。
誰かもっと読解力のある人に感想を聞きたい。

 

たまに、
驚くほどしっくりくるというか、
自分の感性や境遇に似ているおはなしってありますよね。
この〈作者〉は〈こういう人〉のこと良くわかってるな、って。

 

だけど〈作者〉って本当に〈作者〉なのでしょうか?
まさか〈こういう人〉って〈自分〉なのでしょうか?
これは他人が書いた他人についてのおはなしなのでしょうか?

 

ね、ほら、だんだん気になってきたでしょう?
案外「物語に閉じ込められ」るって身近なことなんです。

 

 

 

『奇譚を売る店』:

 

古本屋で“私”が「買ってしまった」のは、
古書に憑かれた人間たちを描いた奇妙な小説。
あの店主が叩いていた、カチャ、という和文タイプの音。
これはひょっとしてあの店主が書いた小説なのでは――。

 

ここまでの作品の総集編。
古書に憑かれた“私”たちの物語であり、
しかしこれを読んでいる“あなた”の物語。

 

昔読んだ本の中で、
二人称(あなた)は読者には現実があるために成立しない。
というような文言を見た気がするけどこれは…成立、か。

 

なんだか古書店主が怖い人のように描かれていたけど、
私には悲しげに見えたなぁ…似た経験があるからかも。

 

最後(【P267】)からの狂気とスピード感。
怖すぎる!怖すぎて読後は速攻でうしろふりむきました。
※ネタバレのため【 】内を白字表記としております。
※任意でお読みになる場合は【 】内を反転してください。

 

 

 

おはなしもおもしろかったですが、
扉・目次・一部の書体まで古書のようなデザインで、
あとがきや解説まで世界観がきちんと守られていて、
この本、ひいては、古書への愛とこだわりと感じる。

 

芦辺氏の小説は初見でしたがとっても良かったです!

 

文体もなめらかで非常に読みやすかったのですが、
おもしろすぎてなんだか読了するのが惜しくなり、
ちまちま読んで確実に2日は無駄にしていました。

 

読み終わりたくないなんてはじめてだなぁ。
まるでこの本に憑かれたみたいな言い方して。
もちろんそんなわけは…あれ…私もしかして本当に閉じk

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。