Debris glass photo

 

チャーリー・N・ホームバーグ『硝子の魔術師』(原島文世 訳)を読了。今年1月に読んだ『紙の魔術師』待望の続編です。次回作が3月刊行予定とのことだったのでちょうどいいタイミングで読もうと発売当初早々に購入しておいて大事にじっくり寝かせておいた1冊、さてその中身はというと、率直にいうとめちゃくちゃおもしろかったです。シリーズものって結局1作目が一番おもしろいってパターンになりがちだけどこのシリーズに関しては個人的には前作よりも今作のほうがおもしろかったかな。次回作はこれをもさらに超えてくるというのだろうか…?今からすごく楽しみ!

 

 

 

めっちゃ早口で言ってそう

紙の魔術師になるべく、セイン師のもとで実習にはげむシオニー。実習の一環で見学していた紙工場が何者かに爆破される事件が起きる。どうやら、禁断の術を操る魔術師たちにシオニーが狙われているらしい。彼女の秘密の力を気づかれてしまったのか……? 赤毛の魔術師実習生が活躍する歴史ファンタジイ第二弾!

 

出典:http://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013774/

「きみの姿は疲れた目の保養になるな。今週はひたすら硬い椅子に座って、もったいぶったイングランド人と話していただけだった」眉をひそめる。「それに、きみのおかげでちょっとした美食家になってしまったようだ」

 

(P16/L9~12より抜粋)

 

ああああああああああ!(^ω^≡^ω^)

 

シオニーとセインのもどかしい恋が素晴らしすぎて途中何度か悶絶。昇天しかけました。ふほほ、ほっぺがによによするのをとめられない…!18章なんかはテンションがあがりすぎて勢いのあまり本を壁にぶん投げるところだった(※物語的にはテンションあがっている場合じゃなかった)。こんなの手当たり次第に紙吹雪を降らせて「(リア充)破裂せよ!」って呪文を唱えたくなってしまうわ。紙の魔術師じゃなくて本当によかった。ウソ。破裂とかしなくていいからさっさと幸せになってほしい。私を幸せにしてほしい。式場は適当にこのへんに建てておきますね。あと個人的な意見を言わせてもらうと、シオニーがセインに恋をしている様子は無邪気な子犬を見ているようで微笑ましいしめちゃくちゃかわいいけど、あれよあれよというまに事件に巻きこまれてシオニーとセインのあいだで謎の板ばさみになってしまったラングストンはかわいそうだよ?

 

怒涛の長文で萌えを語っていても埓があかないのでそろそろまともに総評を述べますが、物語としておもしろいもののややエンジンのかかりが遅く、中盤までなかなか「夢中になって読む」という感じにはなれませんでした。エンジンがかかってからはあっというまなんですけどね。昨夜12章あたりから読みはじめたときはページをめくる手がとまらなくて文字通り「手に汗握りながら」一気読みだったもん。によによしたりハラハラしたりいそがしかった。表情筋を休ませてくれ。

 

 

作者もあとがきで触れているタイトルについてだけど、私は最初“硝子の魔術師”と聞いてアヴィオスキー師を連想していて、当然、「なぜに?」と思ったわけですが。そのあとグラスが出てきて、グラス=glass=硝子、ああなるほど、って解釈したんだけど、凡人の想像を悠々と超えていったその真意に脱帽。物語をよくよく思い返してみればあれもフラグだったというのか…いや、これ以上はやめておこう。強くて、脆くて、冷たいけれど美しい。本作はまさしくガラスのような緊張感のある1冊です。

 

前作同様、相変わらずクライマックスの戦闘シーンは臨場感たっぷりで胸が熱くなりました。今回はライラ戦よりも熱かったかも。前作の感想記事にも書いたかもしれませんが、抜群の知性と記憶力を駆使して今この場での最善の戦い方を編みだすシオニーの勇姿には感服します。

 

 

 

さんをつけろよデコ助野郎

さて、今回はシオニーを狙う“邪悪な魔術師”が2人登場するんだけど、どちらもシャレにならない邪悪っぷりでハラハラしました。前作のライラももちろん邪悪だったけれどグラスとサラージはもっと容赦ない。あまりの邪悪っぷりに思わず「さん」をつけちゃうレベル。どちらもなかなかに狂っていてぞっとしました。

 

「無駄な追いかけっこには慣れているが、自分が追いかけられるほうがずっと得意でな」一歩足を踏み出す。「おれたちの場合は、ここでおしまいだ」

(P220/L2~4より引用)

 

グラスさんについて印象に残っているのは15章での場面かな。いや、予想していたとおりなのよ、予想どおりの展開だったんだけど、わかっていたんだけど、それでもやっぱりP220こわすぎる。思わず「シオニィィィ…!」って声が漏れてしまったけど、冷静に彼女の状況を考えたら、ああなるのも自然なことだよなぁ。むしろ突然異国に飛ばされて一晩野宿とかその段階でよく心折れなかったな。私ならバッキバキのぐにゃっぐにゃに折れてる。

 

「次はこっちの盤上で遊ぼうじゃないか」

(P300/L1~2より引用)

 

一方のサラージさんはグラスさんよりはるかに強キャラ臭がするのに思いのほか見せ場がなかったのが悔やまれます。戦闘シーンも地味ってことはないけどボリューム的にあっさりした印象だったし。まぁ、必要以上に姿を見せずじわじわとメンタルをえぐってくるところが彼のこわいところだけれど。外見については細かく言及されていないけれどサラージ先輩はイケメンのような気がする。映画化権を取得したディズニーが彼をどう描くかに期待せざるを得ませんね。こういうタイプの強キャラはイケメンって相場が決まっているから。あ、グラスさんはたぶん違う。

 

グラスさん「えっ?」

 

 

 

【悲報】フェンネルほぼ出番なし

最後になりましたが、前作の癒しこと我らがフェンネルはなんと今回あまり登場しません。悲報すぎる。いや、シオニーにふりまわされまくってオロオロするデリラもかわいいけど。しかし読者とシオニーのゴリッゴリにえぐられたメンタルはやはりフェンネルにしか癒せまい。3部作ということは次回作が最終章だろうけど、どうだろう、フェンネル活躍するかしら。セインとイチャイチャするシオニーも最高にかわいいけど!フェンネルをもふもふするシオニーも最高にかわいいから!私は!フェンネルを求む!超求む!

 

 

 

 

2018年6月6日に加筆修正しました。

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。