毎年恒例、読書感想文特集がじわじわ読まれはじめる季節となりました。学生のみなさんこんにちは。年がら年中趣味で読書感想文を書いている者です。

 

とはいえ件の読書感想文特集を書いたのは2016年。さすがに情報の鮮度が落ちてきたのでは、という一方的な老婆心から新作【2018年版】を書きました。今回は上半期のハイライトも兼ねるため今年7月までに読んだ小説――しかも刊行年が最近の小説から5冊を選出しています。新鮮。ピッチピチ。7月は上半期じゃないというツッコミは海にキャッチアンドリリースしておいてください。来年成魚になって帰ってきます。

 

選出基準ですが、読書が苦手な人も参考にしやすいよう文章の読みやすさを前提にしつつ、飽きずに読みきれる個性的な設定と読書感想文の書きやすさを考慮した物語のテーマがわかりやすい作品を選ぶことで当ブログのカラーを出しました。私が実際に読んで「おもしろかった!」と太鼓判を押す小説ばかりなので気になるものがあったらぜひチェックしてみてください。活きのいい良著をそろえました。ささ、どうぞ築地市場的なノリでウキウキウォッチングしていってください。

 

 

 

1.〈妄想の世界〉は幸せなのだろうか -『僕には世界がふたつある』

妄想(もうそう、英: delusion)とは、その文化において共有されない誤った確信のこと妄想を持った本人にはその考えが妄想であるとは認識しない(むしろ病識がない)場合が多い。精神医学用語であり、根拠が薄弱であるにもかかわらず、確信が異常に強固であるということや、経験、検証、説得によって訂正不能であるということ、内容が非現実的であるということが特徴とされている。日常的な会話でも用いられることもあるがそのときはいかがわしい考えや空想を表し、必ずしも病的な意味合いを含むわけではなく軽い意味で使われている。

 

妄想 – Wikipediaより引用

 

私は中高生の頃は小説家になることが夢だったので、新人賞の応募要項をながめてはよく〈史上最年少で〇〇賞を授賞しデビューした謎の覆面作家〉の自分を想像していました。現実から離れてほんのひととき自分だけの世界で非日常に浸るのは楽しいですよね。だけど「想像」が「妄想」になり、そして、現実と区別がつかなくなってきたら……それは恐怖でしょうか、それとも、幸せ?

 

誰かが僕を殺そうとしている――そんな予感に怯えながら毎日を送っている「普通の高校生」のケイダン。一方、彼は海賊船に乗っておかしな船長やオウムたちとともに“世界一深い海”を目指す「乗組員」の一面も持っています。現実と妄想、ふたつの世界を頼りなく行ったり来たりしながら、少しずつ成長していく少年のおはなしです。たとえるとしたら東京ディズニーシーにあるアトラクション〈海底2万マイル〉でしょうか。あれに乗っているときのような、本当に波や泡の音が聞こえてきそうなほどリアルで幻想的な文章で、とっつきにくい内容ではありますが不思議と読みやすい作品です。

 

現実と妄想が同時に等しく存在する・・・・・・・・・・とはどういうことなのか、その当事者である主人公・ケイダンはもちろん、彼を見守る家族や友人たちの言動からもいろんなことを考えさせられます。自分がケイダンと同じ境遇だったら。また、ケイダンのような人物がそばにいたらどんなふうに接するだろう。そんなふうに考えながら読むと共感できる文章やキャラクターが見つかるのではないでしょうか。そして、クライマックスには今いる場所から一歩を踏みだすために大切なことが書かれています。今がつらいと感じている人、なにか悩みがある人、苦しいときはぜひ読んでほしい1冊です。

 

当ブログ感想記事はこちら:
言葉の時間はもうおしまい -『僕には世界がふたつある』感想

 

 

 

 

2.過去を見つめながら未来へ進む方法 -『私の頭が正常であったなら』

夏!ということで定番のホラー小説を1冊選んでみました。短編集なので、好きなおはなしが見つかればそのうちどれかひとつをピックアップして読書感想文を書けばいいんじゃないかな。どのおはなしにも幽霊などのホラー要素はありますが恐怖よりも寂しさ・哀しさが勝るので怖がりな人も安心して読めます。

 

おすすめは、生まれてきた娘が、そんなはずあるわけないのに、かつて自分たちが自殺へ追いこんでしまった少女にどんどん似てくる……というおはなし「子どもを沈める」。そして、震災からひとり生き残った父親と、あの日津波に呑まれてしまった息子がおもちゃのトランシーバーを介して交流する不思議なおはなし「トランシーバー」です。

 

人間の視野は左右約180~200度といわれています。首をまわして後方に目をやりながら歩くのではないかぎり、うしろを見ながら前へ歩くことはできません。しかし、それでは今度は前が疎かになり転んでしまう。うしろをふりかえるか前を見据えるか。過去と未来、どちらかひとつを選ぶしか、歩くことはできないのでしょうか。苦しい過去を背負った主人公たちはこれからの未来にどんな答えを出したのか。彼らとあなたの考えはどこが似ていてどこが違うのか、ぜひ本書を読みながら考えてみてください。思い出や失敗を「過去」として受けとめながら未来へむかって歩いていくにはどうしたらいいのか、そのヒントがきっと見つかる1冊です。

 

当ブログ感想記事はこちら:
明日起こるかもしれない喪失 -『私の頭が正常であったなら』感想

 

 

 

 

3.大事なもの ,  大切なもの  -『あずかりやさん』

あなたは「大事」と「大切」、このふたつの言葉を普段どんなふうに使いわけていますか?

 

【大事】①かけがえのないものとして大切にするようす。「――な時計」②重要なようす。「――な問題」

【大切】①ひじょうに重要なようす。「――な勉強」②ていねいに扱うようす。「――に使う」

 

旺文社『標準 国語辞典 新改訂版』(吉田精一・監修)より引用

 

手元にある辞書で「大事」「大切」をそれぞれ引いてみると、広義に差はなく、類義語と捉えてよさそうです。大事なものと大切なもの。私の主観ではこのふたつは微妙にニュアンスが違って、「大事」は手元に置いてときどき見返すことで自分らしさを見失わないようにするもの、「大切」は今もどこかに存在しているということに意味があり距離をおくことで人を大きく成長させるもの。そんな差があると思うんです。

 

本書は1日100円でどんなものでもあずかってくれるという不思議なお店〈あずかりや〉を舞台にした短編集。ここになにかをあずけていく人たちは皆、ここにあずけることで、これが「大事なもの」なのか「大切なもの」なのか、取りにくるべきなのか忘れるべきなのか、それらモノとの適切な距離を計っているように私には見えます。おはなしごとに主人公は人間だったりモノだったりしますが、人間の物語には共感する場面が多く、またモノの限られた視野で世界を見ることによって人間の繊細さや複雑さを考えさせられます。

 

さて、この〈あずかりや〉になにかあずけるとしたら、どんなものをあずけるだろう。理由は?あずかり期間は?その日が来たら本当にそれを持って帰る?――自分に置き換えて読んでいくと、自分の身のまわりにあるさまざまなモノ、なにが「大事」でなにが「大切」か、きっと見えてくるはず。

 

当ブログ感想記事はこちら:
大切なものは目に見えないし、見える。 -『あずかりやさん』感想

 

 

 

 

4.“違う”というのは本当? -『カラスのジョンソン』

このあいだ、久しぶりにCDをベランダにぶらさげている家を発見しました。なつかしいなぁ。子供の頃は野良猫避けのペットボトルとともによくある光景だったけど最近はあまり見かけない気がする。今現役の中高生はCDがときたまカラス避けに使われる(※ただしカラスは学習能力が高いため最初こそ効果はあるかもしれないがあとはまったく役に立たない)ことを知っているんだろうか。

 

害鳥に指定されているカラスの雛をひょんなことから拾ってきてしまった母・里律子とその息子・陽一、彼らに手厚く保護されながら育った「ジョンソン」の三者が織りなす、〈命〉と〈生きること〉の物語。詩的で幻想的な表現の多い文章ですがやわらかく親しみやすい言葉で書かれているので読みやすいと思います。私は2日くらいで読み終わりました。

 

親は子を守り、子は親の想いを知ってひとつ大人になり、なにかを得ればなにかを失って、ときに喜び、ときに悲しみ、ときに怒り、食べて、寝て、生きていく。――それはどんな生きものにも共通することで、人間とカラスとのあいだに、じつはそれほど大きな違いは本当はないのかもしれない。それなのに、どうして私たちは一緒に生きていくことができないのでしょうか。ジョンソンがカラスだから?カラスは害鳥だから?人間と動物は違う生きものだから?“違う”って誰が決めているんだろう?人間同士のあいだにも“違う”という問題はしばしば横たわります。それは本当に“違う”のか、本書を読んだあと、今一度考えてみるというのはどうでしょうか?

 

当ブログ感想記事はこちら:
夏の夜 カラスの星 -『カラスのジョンソン』感想

 

 

 

 

5.私に一番似ている動物、だーれだ? -『きげんのいいリス』

昔、巷では四柱推命をベースにした〈動物占い〉というものが流行りました。私はチーターなんですけど、「超プラス思考」「チャレンジ精神旺盛」「新しいもの・ブランド品が好き」未だに納得できない。なお、本来の四柱推命で占うとめちゃくちゃ納得する模様。言いまわしって大事。最近は動物占いも進化して60種類の動物に細分化されたそうです。増えすぎ。

 

というわけで、さすがに60種類も出てきませんが、気難しくて愛くるしいヘンテコな動物たちがたくさん登場する小説『きげんのいいリス』を〈登場人物が多く、また、ページ数が少なく読みやすい〉という観点から選出しました。長編小説ですが掌編小説集のような構成なので読みやすいはず。忘れっぽくおちゃめなリスの他に、あらゆることを知りすぎているアリ、自分が何者なのかわからなくなってしまう心配性のカメ、自分のことがこわくてたまらないライオンなど……あれ、なんかこのコ、誰かに似てない?そんな気づきとぬくもりにあふれています。

 

自分に似ている動物を見つけたり、また、この世界に加わるとしたら自分はどんな動物になるだろう、と考えると読書感想文も楽しく書けそうです。印象に残ったエピソードをピックアップしてそこにはどういう意味がこめられていたのか自分なりに解釈してみても読みごたえのある文章になるのではないでしょうか。とくにリスとアリの友情は距離感がすごく心地がよかったので、読書感想文に関係なく、学校などで友人と過ごす時間が多い学生さんにはぜひ読んでみてほしい1冊です。

 

当ブログ感想記事はこちら:
ぼくはリス きみはだあれ? -『きげんのいいリス』感想

 

 

 

 

おわりに

以上、上半期のハイライトを兼ねた読書感想文におすすめの小説5選でした。あくまで一例ですが、「どうすればよりよい世界・社会・未来をつくっていけるのか」というふうな硬派な読書感想文に仕上げたいのであれば『僕には世界がふたつある』『私の頭が正常であったなら』『カラスのジョンソン』の3冊、自分の価値観や経験などを交えて「ここに共感しました」というやわらかめの読書感想文を書きたいのであれば『あずかりやさん』『きげんのいいリス』あたりを読むのがいいのではないでしょうか。

 

うーんあとは、上半期の総括として述べれば、読書感想文向きということを考慮しなければチャーリー・N・ホームバーグ『紙の魔術師』(原島文世・訳)三部作、葉山透『それは宇宙人のしわざです』、加納朋子『カーテンコール!』なども推したいところですが、ともあれ良著に恵まれた豊漁の上半期となりました。下半期のハイライトもまたなにかの企画・特集ついでにねじこもうと思いますのでお楽しみに。

 

2回目の読書感想文特集となりましたが、うん、2016年よりずっとまともな記事になったかな。少しでも学生さんたちの助力になればうれしいです。それでは、読書が好きな人も苦手な人も、この夏は素敵な本との出会いがありますように。読書感想文、応援しています。ファイト!

 

参考にしたサイト一覧

妄想 – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A6%84%E6%83%B3

 

人間の視野はどのくらいですか?また視野の広い動物、狭い動物を教えてください。│快適視生活応援団
http://www.kaiteki-eye.jp/qa/128/

 

Ranking
Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
読んだ小説の感想や考察を書いています。好きが高じて元小説家志望なので、一篇の物語のように心躍る記事が書ければ。ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれます。小説の他に哲学、美術、神話などの学術本も好きです。