【感想】
  • 感想の思索、または詩作 -『坂下あたると、しじょうの宇宙』感想

    言葉について、小説について考える小説が好きだ。そんな理由で町屋良平『坂口あたると、しじょうの宇宙』を手にとったのだけれど、「好き」か「嫌い」かで問われたら答えるのが難しい。文体や展開に自分の考える「純文学っぽさ」がまんまあって、物語として見た場合に「おもしろかった!」とは言えない。言えないんだけど。 なんであたるの声だけ聞こえるんだ? おれたちの発する雑音に汚されても、こんなにハッキリし...

    2020年2月27日

  • 本当に、箱とキツネとパイナップルの話 -『箱とキツネと、パイナップル』感想

    ある小説家が以前、タイトルは小説にとってもっとも長期的に打てる広告、みたいなことをTwitterに投稿していた。かえってそれを意識しすぎているのか、映画のポスターなど、日本の広告は情報を過度に説明しすぎるきらいがある。出版業界でいえば、文章がそのままタイトルになってしまうことも今や珍しくない。 その観点からすると、村木美涼の小説『箱とキツネと、パイナップル』は巧いタイトルだなとつくづ...
  • 私は1人の人間についてどれだけのことを語れるだろう -『壁の男』感想

    たとえば、こんなシチュエーションを想像してみる。「あなたが尊敬している人物は誰ですか?」と面接官に問われた私は、適当な名を挙げ、さらに具体的な理由を説明しようとしている。そのとき私は、1人の人間についてはたしてどれだけのことを語れるだろう――。貫井徳郎『壁の男』を読んで最初に浮かんだ感想はそれでした。私は今このときほど他人の人生によりそったことなど、じつは一度もなかったんじゃないか、と。 ...
  • 如何様なイカサマか? -『如何様』感想

    書店で小説を選んでいるときに連れから「これは?」とわたされた高山羽根子『如何様』、「敗戦後」という言葉に食指が動かないなぁ(歴史苦手)と気が進まないまま読んでみたらあっというまに読み終わっていたし作品に想いをめぐらせるのすんごいおもしろかったので特集に組みこむ予定だった感想こねくりまわして1本の記事にしました。 そもそもこの世の多くの場所にとって、坂道は高さの違う...

    2020年1月22日

  • 像をめぐる崇拝と崩壊 -『チェーン・ピープル』感想

    三崎作品といえば中学生だか高校生だかの頃『となり町戦争』から『廃墟建築士』まで首をかしげながら読んだものですが、10年ぶりに『チェーン・ピープル』を読んだらめちゃくちゃ好きなやつだったので『バスジャック』と『鼓笛隊の襲来』と『廃墟建築士』は絶対に読みなおさなきゃ(使命感)と思いました。 正義の味方 相変わらず、私にとって彼はヒーローであり、戦い続ける...
  • いい時代になりました、が。- 澤村伊智『ファミリーランド』を考察する

    !ネタバレ注意! 本記事は澤村伊智『ファミリーランド』に関する考察記事です。作品の内容や結末について本文を引用しながら書いているので、作品を既読である、またはネタバレを承諾する場合のみ閲覧することを推奨します。また、記載される内容はあくまで筆者個人の意見です。以上のことに同意していただける方のみ続きをお読みください。 澤村伊智『ファミリーランド』を読んだんですけ...

    2019年11月28日

  • とある読書ブログの画竜点睛 -『線は、僕を描く』感想

    最近は平藤喜久子『いきもので読む、日本の神話 身近な動物から異形のものまで集う世界』(ホリナルミ・絵)を読んだりね、1~2ヶ月に1冊ぐらい学術書とかビジネス書とか読んでる私なんですけど、いやぁ、先日とんでもないインプットの塊に出会ってしまったんですよ。ご存知ですか?砥上裕將『線は、僕を描く』っていう小説なんですけど。 物語としては、両親を事故で亡くしてから孤独な大学生活を送っ...

    2019年11月14日

  • 感想という意識の散布、願わくば萌芽 -『キキ・ホリック』感想

    麦です。今日も今日とて、頭蓋骨割れんばかりの頭痛。興奮しすぎて。というのも、森晶麿『キキ・ホリック』!これがもう、痺れる。ゾクゾクしながら2日であっというまに読んじゃった。森作品といえば〈黒猫〉と〈偽恋愛小説家〉のシリーズ、あと『花酔いロジック』は最初の1冊だけ既読だけれど、いやいや、『キキ・ホリック』は随一の傑作だと思います。 ...
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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。