hedgehog photo

 

 

 

ウチの母はネズミが苦手です。

 

「ネズミ」と言っただけで嫌な顔をするほど、
ドラえもんレベルで苦手らしいんですけど、
おもしろいことに干支は子なんですよね(笑)。
私がハムスターを飼っているのも平気なようでした。

 

曰く、
「ハムスターはなんか大丈夫」だそうで。
都会でたまに見かけるような大きなのがダメなのかな。

 

だけど都会に住んでいるわけでもないし、
日常でネズミを見かける機会なんてあまりないと思うのですが。
一体なにが母をそこまで怯えさせるのかイマイチわかりません。

 

でもたしかに、
ハムスターと似た姿かたちをしているのに
ハツカネズミとかになるとなぜかちょっと
触れるの躊躇しますよね?なんででしょう。
ツルッとしたあの毛の質感とかでしょうか。

 

ちなみに私自身は鳥類が苦手です。
アヒルや鴨、文鳥やインコ、ニワトリも全部ダメ。
でもお肉は鶏肉が1番好きです。…人のこと言えませんね。

 

そんなわけで今回はネズミのおはなし。
まぁ、ネズミはネズミでもハリネズミなんですけど。
トーン・テレヘン氏『ハリネズミの願い』読了です。

 

 

 

欲しいのは友達?それとも孤独?


 

 

ある日、
自分のハリが大嫌いで、つきあいの苦手なハリネズミが、
誰かを招待しようと思いたつ。

 

さっそく招待状を書き始めるが、手紙を送る勇気が出ない。

 

もしクマがきたら?
カエルがきたら?
フクロウがきたら?

 

――臆病で気難しいハリネズミに友だちはできるのか?
オランダで最も敬愛される作家による大人のための物語。

 

※あらすじは新潮社HPより引用しました(一部編集)。
http://www.shinchosha.co.jp/book/506991/

 

***

 

キミたちみんなをぼくの家に招待します。
……でも、
だれも来なくてもだいじょうぶです。

 

帯の、
作中でハリネズミが動物たちに宛てて書いた
消極的すぎるこの招待状の文に惹かれて購入。
表紙や挿絵のハリネズミたちもかわいいです。

 

ただ1点読む前に考慮してほしいところは、
一見するとたくさんの動物たちが登場する
絵本のようなかわいい児童文学のように見えますが、
結構好みがわかれる作品なんじゃないかという点です。

 

度を越えた人見知り、いや、動物見知り?
いわゆる“コミュ障”なハリネズミに対して、
自分がどこまで共感(許容)できるかによって
読書中のストレス値が変わってくるかなぁと。

 

たとえば私はハリネズミ同様、
なかなかの人見知りなので「あるあるww」と作中
笑ったり傷口をえぐられながら(笑)読めましたが、
そうでない人からすると彼の慎重すぎる思考や行動は
じれったくイライラするところがあるかもしれません。

 

しかし彼が物語終盤に直面する問い――とはすわなち、
自分が求めているものはまわりとのつながりか孤独か。
これって誰もが持つ普遍的なテーマだと思うんですよ。
だからどうか彼の慎重さは大目に見て最後まで読んでほしいです。

 

 

 

針と願いは本当にただの寓意なのか


 

 

ところで、
自分の背中の針を他の動物たちが怖がるため
自分もそれが大嫌いでまわりともうまくつきあえない、
というハリネズミの悩み、私はこれ、まずまっさきに
かの有名な〈ヤマアラシのジレンマ〉を連想しました。

 

「ヤマアラシのジレンマ」
(Hedgehog’s dilemma、原義は「ハリネズミのジレンマ」)とは
「自己の自立」と「相手との一体感」という2つの欲求によるジレンマ。
寒空にいるヤマアラシが互いに身を寄せ合って暖め合いたいが、
針が刺さるので近づけないという、
ドイツの哲学者、ショーペンハウアーの寓話に由来する。

 

※以下のURLを参考にしました。

 

Wikipedia「ヤマアラシ」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%83%9E%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%82%B7#.E5.93.B2.E5.AD.A6.E7.94.A8.E8.AA.9E

 

むしろ正式には「ハリネズミのジレンマ」なんですね。

 

誰かとつながりたい、けど、近づけない。
自分にある〈なにか〉が誰かとのあいだで邪魔をする。

 

これってハリネズミだけの、
物語の中だけの悩みでしょうか。

 

震災やSNS等の発展など伴い、
昨今人々は“誰か”との結びつきを強く求めるようになりました。
「ぼっち」や「承認欲求」という言葉の普及はその裏返しのように思います。

 

自己を確立するために、

 

人と比較し、
人を批判し、
人を選んで、
人と群れる。

 

私たちが孤独に怯えるそれらの行動は、
臆病なハリネズミの背中の針となにが違うでしょう。

 

本書には人間は一切登場しませんが、
臆病で気難しいハリネズミを私は他人事のようには思えないんですよね。

 

 

 

案ずるより産むが易し


 

 

前述したとおり、
私もハリネズミに似た性格をしていて、
人に会うのに何日も前から不安になり、
あれこれぐるぐる考えてしまうことが多々あるのですが、
(人だけでなくイベント等でも悩んでしまうんですよね)
あるとき人にこんな目からウロコなことを言われました。

 

――それだけ慎重に考えられるんだから大丈夫だよ。

 

○○したらどうしよう。
不安だから悩んで考えてそしてシュミレーションする。
もし○○したらそのときは××するようにしよう、になる。

 

不安になれる、悩める、ということは、
考えかたを変えればそれだけ慎重に丁寧に段取りを組めるということ。
助言をくれたその人は私のそれを「羨ましい」とも言ってくれました。

 

誰しも緊張というのは歓迎しないものですが、
人間には適度な緊張は必要なのだとどこかで聞きました。
あるいは不安という感情もまた人間には適度に必要なのかもしれません。

 

私の心配性をちょっとだけ緩和してくれたこの言葉に、
臆病なハリネズミは辿りつくことができたのでしょうか。
彼の不安の顛末が気になる方はぜひ実際に読んでみてください。

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。