本当にね、今さらなんですけれども。2019年に読んだ小説の総括してなくね?と、このあいだMilanoteにつくってあった「おもしろかった小説2019」というボードを見て思いだしました。ので、例にもよって相方・わかばを召喚します。契約のもと麦が命じる、封印解除!
漫才をやろう!
毎回ね、おもしろかった小説をまとめて“個人的に一番おもしろい小説”を作っていたわけですけども。ちょっとマンネリかなと思いまして。今回は2019年に読んだおもしろかった小説の設定で漫才ネタをつくってみようかなと。
じゃあやむをえず俺がボケね。いいよ。Mugitterさんは、
Mugitterさんは、「おもしろかった小説10冊、1冊1冊挙げていってもいいですか?」みたいな。で、俺が「ふんふん」って聞きながら小ボケをかましていく感じで10冊やっていって、途中伏線も散りばめつつ、最後どっかーん笑いとって「もうええわ!」っていう方向性でどう?
あい、わかったぁ。それではっ(小鼓)聞いてっ(小鼓)あっしんぜよぉぉぉう!
え、どうする?傾くか傾かないだけ先決めちゃう?
じゃあ、私が1冊ずつタイトルと設定を言っていくと。
それに対して俺が「え?それってこういうこと?」みたいな茶々入れるから、半ギレで返して。
ネタをつくろう!①『トランクの中に行った双子』編
2019年に読んだおもしろかった小説①
ショーニン・マグワイア『トランクの中に行った双子』(原島文世・訳)
『トランクの中に行った双子』は、性格が正反対の双子が主人公なんだけど。
あ、逆っていうのはね、この両親別々に男の子と女の子がほしいと思ってたんだよね。
女の子の双子が生まれてきたときに、一方は女の子らしく、もう一方は男の子っぽく育てられたんだけど、双子本人はじつはそれぞれ真逆の内面性だったと。そしたらあるとき部屋の中でトランクを見つけて、開けてみたら中が階段になってて、下には異世界が広がっていたのね。これ幸いにと、その異世界で2人はそれぞれ夢見てた理想の自分を生きていくんだけど――。
そう、だから「女の子」って言われてイメージが狂ったしさ、「トランク」って言った瞬間「ザ・たっちだったら入らねぇな」って気になってしょうがなかったわ今。トランクってあれでしょ、旅行カバンでしょ?エスパー伊東じゃないと無理じゃんそれ。
まぁでもボーイッシュな……内面は女の子だけどボーイッシュな、かずや?
ヴァンパイアの配役はどうする?明石家さんまとかでいい?
ヴァンパイアって八重歯だから。強調されるの。前歯じゃなくて。
え、じゃあやっぱりエスパー伊東がトランクの中に行って、ザ・たっちが後につづく頃にはもうエスパー伊東の治める国ができていたってこと?
だいたいそうなる。これはそういう話だね、つまりはね。
ネタをつくろう!②『半分世界』編
2019年に読んだおもしろかった小説②
石川宗生『半分世界』
次は『半分世界』っていう小説なんだけど、これ短編集だから一応、表題作だけ設定ピックアップしてきた。
ある日突然、ごくごく一般の家庭がまっぷたつになって、巨大なシルバニアファミリーの家みたいな状態になるのね。で、家の中の人たちは家が半分になってることは知ってるんだけど、それでもなお生活をつづけてるの、別段パニックも起こさず。それを奇妙に思ったまわりの人たちはだんだんその家を観察するようになる。
そう、モニタリングみたいになるわけよ。家の向かいにマンションが建ってたりするんだけど、そのマンションの各部屋が――あ、藤原さん家がまっぷたつになってるんだけどね、藤原さん家を観察するために、各部屋が野次馬でいっぱいになってて。
フジワラーがね、向かいのマンションから日がな一日藤原家を観察してるっていう、そういう話。
なんばグランド花月がある日突然まっぷたつになって、近所の人が「やったー!無料だー!完全無料だー!」。
なんばグランド花月に住んでたの?FUJIWARAって。
違うだろ。まぁつまり、タダ見してるお笑い好きの人たちの構図なのね。……え、この小説なにを啓蒙してるの?
ちゃんとお笑い芸人たちが毎回板に立ってね、新鮮な漫才をしてくれてるんだから、違法アップロードされたのなんか見てないでちゃんと劇場に足を運んでね、金を払って、生の、“今”のお笑いを見てほしい。ぜひ。
ネタをつくろう!③『夢みる葦笛』編
2019年に読んだおもしろかった小説③
上田早夕里『夢みる葦笛』
『夢みる葦笛』も短編集だから表題作の設定を持ってきたんだけど、これはなんかね、頭イソギンチャクの人型みたいな。
それそれ。そのタケモトピアノのCMのダンサーみたいな生命体がある日町にあらわれるようになって、それが発する音?みたいなものがきれいで、人々を魅了する話なんだけど。
8.6秒バズーカーのブームが来たときみんなさ、あのリズムを真似したでしょ?
8.6秒バズーカーって言って出てくんのそっちのフレーズなんだね。普通「ラッスンゴレライ」のほうなんだけどね。
あと、頭イソギンチャクの人型のビジュアルはやっぱ完全にタケモトピアノだったよね。
タケモ~ト~ピアノ~を~売っ……買ってませんでした~♪ チッキショー!ってことでね。
ネタをつくろう!④『偶然仕掛け人』編
2019年に読んだおもしろかった小説④
ヨアブ・ブルーム『偶然仕掛け人』(高里ひろ・訳)
『偶然仕掛け人』は日常系不思議な話で、この現代社会に普通に、秘密裏にではあるんだけど、いろんな人の遭遇する偶然を陰で仕掛けてる「偶然仕掛け人」って仕事が存在する世界なのね。
真逆だとなんか、依頼されても人殺さない人みたいになっちゃうけど!?
必殺仕事人みたいだよね、って言いたかっただけ。響きが。
その、「偶然仕掛け人」になりたい3人の若者の、なれるのか?みたいな成長群像劇。
たとえば、AさんとBさんが本屋に入って偶然同じ本を手にとって「あ!」みたいなやつ。あの“偶然”が、AさんとBさんは偶然だと思ってるんだけど、本当はまずAさんとBさんが同じ本屋に行くように仕向けて、で、2人が同じ本を手にとるように他にもいろんな裏工作をしてたみたいな。っていうのをやってるのが「偶然仕掛け人」。
さっきからすごいテレビにしてくるんだよなぁ、話を。
「このテレビ番組よくできてんなぁ。こいつもよくしゃべるし、なんかめっちゃうまいな」って思ってたら、それって全部放送作家が台本で書いてる。
なんかあれね、偏った業界の本ばっかり読んでらっしゃる。
逆にだよね。逆によくこんな業界の引き出しを持ってらっしゃる。業界人かな?
ネタをつくろう!⑤『私たち異者は』編
2019年に読んだおもしろかった小説⑤
スティーブン・ミルハウザー『私たち異者は』(柴田元幸・訳)
次、『私たち異者は』も海外の短編小説集の表題作だけど、この「異者」っていうのは、まぁ、幽霊のことなのね端的に言うと。
そう、異なる者と書いて「異者」。で、えーと、主人公の男性がある日突然、気がついたらベッドの上で寝てる自分を見てて。「あれ、これ俺じゃねーか?」って。どうやら自分が生きてる人には見えない幽霊になってた、と。
「ゆーたいりだつー!」はたしかに代表的なネタではあるけどね。
すごいね、〈ザ・たっち〉シリーズ去年2冊も読んでんの?
前作『トランクの中に行った双子 ~ザ・たっち VS エスパー伊東~』
〈ザ・たっち〉シリーズじゃないのよ別に。びっくりした。そんなとこでつながってくると思わなかったよ。
ネタをつくろう!⑥『人ノ町』編
2019年に読んだおもしろかった小説⑥
詠坂雄二『人ノ町』
『人ノ町』って小説はまぁ、これも短編小説だけど、主人公が旅人でいろんな町を旅していて。それぞれの町で起きた話を1つずつ短編にしてるから、連作短編集みたいなもんですわ。
いろんな町に行って、で、その町で出会った人とかと交流しながら。
町ブラ系ってことでよろしい?最近よくある、お昼2時から4時くらいにやってる。
石の町とか北の町とかタイトルがいろいろあって、あの、飯食ってるシーンはそんなになかったと思う。
あれか、どっちかっていうとゲストの思い入れのある場所とかに行って……?
最後にこう、ゲストも覚えてんだか覚えてないんだかわからない旧友とか出てきて手紙を読むみたいな。
なんか「ひらめいちゃった☆」みたいな顔で言ってるけど、偶然立ちよった神社仏閣で御朱印集めたりしないのよ。
ネタをつくろう!⑦『貸し本喫茶イストワール 書けない作家と臆病な司書』編
2019年に読んだおもしろかった小説⑦
川添枯美『貸し本喫茶イストワール 書けない作家と臆病な司書』
『貸し本喫茶イストワール 書けない作家と臆病な司書』は、主人公が元作家なんだけど、事情があって小説書けなくなっちゃって。でもバイトしないと生活できないから喫茶店でバイトすることにしたんだけど、その喫茶店っていうのが本の貸し出しもしてる〈貸し本喫茶〉だったのね。〈貸し本喫茶〉っていうのがいい設定だなーと思って。
ちょっとやってみようか。店員やって。じゃあ俺店員やるから。……あ、俺も店員やるわ(笑)
ネタをつくろう!⑧『女學生奇譚』編
2019年に読んだおもしろかった小説⑧
川瀬七緒『女學生奇譚』
『女學生奇譚』の主人公はフリーライターなんだけど、恐怖を感じることができないのね。遺伝子的にというか、体質的に?だから作中こわいことが起きても別に「こわい」と思ってないのね。冒頭で、読んだら呪われる!みたいな曰くつきの本を預かるんだけど、全然普通に読むのね。ジャンルとしてはホラーとかミステリーだけど、主人公のそこだけおもしろかったです。
「今日は、全然こわくない曰くつきの本を読んでみたいと思います」
ネタをつくろう!⑨『線は、僕を描く』編
2019年に読んだおもしろかった小説⑨
砥上裕將『線は、僕を描く』
『線は、僕を描く』は、あるとき主人公が会場設営のバイトに行って、それが水墨画の展覧会だったんだけど、そこで水墨画を描いてる人と実際に会って。で、「せっかく設営してくれたんだから帰り見てってよー」って言われて見てまわるんだけど、そのときにたまたま水墨画界の大御所みたいな先生と偶然出会って、ひょんなことから主人公も弟子入りして水墨画を描くことになるのね。で、先生の教えに従って描いてるうちに人としても成長していく……みたいな。
「水墨画」ってのをテーマにしてるってところが珍しいかなと。
あらすじ説明したあと、この小説の名ゼリフ的なものを引用して「それ〇〇が言った名言だろ!」「絶対読んでんじゃんおまえ!」みたいな。
暇だなそいつ。あと「舌鼓」って食ってんじゃねーか。
ネタをつくろう!⑩『ファミリーランド』編
2019年に読んだおもしろかった小説⑩
澤村伊智『ファミリーランド』
『ファミリーランド』は、これも短編集だけど表題作はなくて、個々の短編っていうより全体がおもしろかったから全部に共通する設定として抜き出したんだけど、「家族にまつわる近未来SF小説」なのね。
まぁそうだね、ドラえもん×クレしん……よりはちょっと不思議な、奇妙な話みたいな。
ジャイアンの真似できなかったわ俺。たとえばどんな話があるの?
具体例を言うと、「翼の折れた金魚」は、近未来の日本で薬を飲んで子供を産まなくちゃいけなくて。その薬っていうのが、端的にいうと品行方正な子供がちゃんと生まれてくる薬なのね。見た目は金髪・碧眼で統一されてるらしいの、薬の副作用で。薬を飲まない場合私たちみたいな普通の人間が生まれてくるんだけど、だから、逆に一発でわかっちゃうのよ「薬飲まずに子供産んだんだー」って。それによって子供がいじめられちゃう。薬を飲んで金髪・碧眼を産むことがスタンダードだから。じゃあ結局、薬で調整されて生まれた子供と単純に夫婦が愛しあった結果生まれてきた普通の子供どっちが未来にとっていいんだろうね、みたいな話。
難しいよねぇそれは。後半になってくるとサイヤ人じゃないと勝てない敵しかいないっていう、ね。
たしかにスーパーサイヤ人はすごいよ?でもインフレしすぎてスーパーサイヤ人しかいなくなっちゃってさ、ここにクリリンが入ってきたらさ、そりゃ勝てないよ、セルにだってブーにだって。
金髪・碧眼のことスーパーサイヤ人だと思ってるの?もしかして。
ただ戦闘民族のスーパーサイヤ人が品行方正みたいに書かれてるのはちょっとこう……そこは解釈の違いなのかな?
ドラゴンボールって家族にまつわる近未来SFだったの?
カプセルコーポレーションは、……あれ製薬会社ではない?
いやドラゴンボール知らんし。ドラえもん×クレヨンしんちゃん×ドラゴンボールの小説ってなに?
金とか銀のエンジェル集めてもらうチョコボールの缶ぐらい夢詰まってる。
オチを決めよう!
「おめーめちゃくちゃテレビっ子じゃねぇか!」ってことよねぇ。
大ボケとしてはあれじゃない?こんだけテレビネタ出してきたくせにテレビっ子の常識を一切知らない、とか。「テレビの引き出し多くない?」って話をまずして。
そっか。まぁ、テレビ関係でつなげられてはいるかな。だから落とすとしたらそういう関係で落とすのがいいんだよね。
あっ、これ本当にオールスター感謝祭のこと知らねー人の沈黙だ!
あってるけど間違ってる。オールスター感謝祭ってクイズ出すから、「ではここで問題です。島田紳助に代わり、オールスター感謝祭で現在司会を務めているタレントは誰でしょう?お答えください」「…………」「知らないんかい!」って流れはどう?
いや、ここで小説に話を戻さなくていいのかっていう。
オールスター感謝祭風に小説の問題を俺が出して終わってもいいんだよなぁ。
わかった!「ではここで問題です。あなたが2019年に読んだ小説の中で一番おもしろかった小説はなんでしょう?」って言って、で、私が(答えを)書いてるふりして、この10冊にかすりもしない小説を出すっていう。で、「この10冊関係なかったじゃねーか!」みたいな感じで終わる。
いいね。でもあれだ、そこだけボケとツッコミが逆転しちゃうから、そこで普通に答えちゃって、「残念!正解は『一発屋芸人列伝』でした!」って山田ルイ53世が出してる本の名前を俺が言う。
そうね、芸人縛りでいこうか。さっきのドラゴンボールの話アイデンティティの田島につなぐわ、じゃあ。
まぁ、あとはそれぞれのネタを詰めればって感じかね。
完成しました。
というわけで、約1時間話しあって完成した漫才がこちらです。
★テキストで読む場合はこちらから。
★ネタづくりの様子もこちらから動画音声で聞くことができます。
結論:
それっぽいのができた。
又吉直樹や光浦靖子、カズレーザーなど「読書芸人」はメディアでもよく見かけますが、ネタそのものに読書をかけあわせている芸人はまだいないんじゃないでしょうか。新しい分野を開拓したような気がします。そういえばM-1グランプリも毎年12月開催ですし、読書家のみなさまにおかれましては、2020年に読んだ本の総括はぜひ漫才風にやってみてはいかがでしょうか?そのままM-1グランプリで優勝するのもまた一興。
こちらからは以上です。もぉええわ。