【感想】
  • 少女を大人にするもの -『薫香のカナピウム』感想

    上田早夕里『薫香のカナピウム』を読みました。前回『夢みる葦笛』の感想の最後で宣言したとおり、買ったきり本棚でねむっていた同作者の長編を救出です。ここは短編と長編の違いでもありますが、同じSFの括りでも本書は物語に起伏はさほど多くなく、主人公・愛琉の成長を軸に、どっしり腰を据えて読むような作品でした。 静かで、とても騒々しい 生態系が一変した未来の地球...
  • 不完全な葦でありたい -『夢みる葦笛』感想

    上田早夕里『夢みる葦笛』を読みました。文庫裏のあらすじに「「人間とは何か」を問う」とあって良書の予感はしたものの、目次を見たとき「これは挫折するかもしれない」と不安もよぎり。積ん読が尽きた頃にようやくおそるおそる読みはじめたのですが、あのね、最高におもしろかった。それでは本書を読んで考えたこと約1万文字、どうぞ。 人間と世界の本質を問う短編集 ある日...
  • 立てば芍薬 座れば牡丹 綻ぶ謎は百合の花 -『昭和少女探偵團』感想

    彩藤アザミ『昭和少女探偵團』を読みました。表紙に惹かれて手には取ったものの「歴史は興味ないんだよなぁ」と一瞬怖気づき、だけど自室の本棚を思いだしてみたら普通に伽古屋圭市『からくり探偵・百栗柿三郎』とか紅玉いづき『大正箱娘 見習い記者と謎解き姫』とかあったので、なんだ杞憂かとそのままレジへ持っていきました。結論から言うと買って大正解。思っていた以上におもしろかった! ...
  • 人間の巣観察キット -『半分世界』感想

    石川宗生『半分世界』を読みました。あらすじを読んだとき「一瞬にして19329人となった」という部分があまりに謎すぎて真顔で「好き……」とつぶやいてしまったので素直に購入。絶対にありえない状況でいやに冷静すこぶる真面目という小説全体の雰囲気がユーモラスで、そして、読んでいるとき私の頭の中ではアリ(人間)がせっせと巣をつくっていました。は?説明します。 見ろ!人がアリ...
  • 私たちは残酷で愛おしく、危うい -『トランクの中に行った双子』感想

    ショーニン・マグワイア『トランクの中に行った双子』(原島文世・訳)を読みました。以前読んだ『不思議の国の少女たち』の続編ですが、おなじみジャックとジルを主人公に2人がエリノアのホームに来る前の、ヴァンパイアの世界に行った当時の物語なので前日譚と言ったほうがいいでしょう。現実の世界にありながら非現実の世界によりそった前作に対し、こちらは非現実の世界にありながら現実の世界によりそっていた印象、...
  • 残酷で美しい世界に帰ってきてしまった -『不思議の国の少女たち』感想

    ショーニン・マグワイア『不思議の国の少女たち』(原島文世・訳)を読みました。まるでアリスのように“不思議の国”に迷いこみ、そして、現実世界へ帰ってきてしまった・・・・・・・・・あとの少年少女たちを描くリアルとファンタジーの調和が新鮮でページをめくるのを惜しむように読んできたのですが、なにせ水のように「浸透していく」と言いあらわすのが一番しっくりくるような作品で、もちろん「おもしろかった!」...
  • 絶望の森を抜けて -『城の王』感想

    スーザン・ヒル『城の王』(幸田敦子・訳)を読みました。読後に思ったこと、考えたこと、感じたこと――そのすべてを言葉にして綴るのは難しく、読み返してみると抽象的で短い文章になってしまったのですが、それでも本書と本書を読んだ私の感想はなにより自分のためにここに残しておきたいと強く思ったので、短くても抽象的でも、ありのままを載せることにしました。読了直後にしたためた感想メモほとんどそのままですが...
  • 私はこれからも考えすぎな文章を書いて生きていく -『会社を綴る人』感想

    朱野帰子『会社を綴る人』を読みました。初読の作家でしたが、作者名どこかで見たことがあるような、と思ったら作者略歴に『マタタビ潔子の猫魂』の文字を見つけて納得。そっか、私がちょうど「ダ・ヴィンチ」(雑誌)を読んでいた時期に連載していた作品だ。あいにく『マタタビ潔子の猫魂』は読んでいないのですが、本書は号泣するほどよかったし、紙屋さん大好き、これから何度も読み返して一生の宝物にしようと思いまし...
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佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。